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歯車
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そろそろ一限が終わる頃だろうか…
頭ではそろそろ戻らないと…と思うのに…身体が動かない。
顔を手で覆い、何度目かの溜息を吐く。
「……。」
ふ、と誰かの視線を感じる。
目だけを扉の方へ向けると、入ってきたのはあの青年だった。
〈まだここに居たんだ…〉
「……何しにここへ?」
〈……棗の事について…〉
おずおずと喋るこの男が、本当に昨日の人とは思えない。
あんなににこやかに笑っていたのに、今では真顔のまま何一つとして崩さない。
「昨日とは別人みたいだね。」
〈………表情を作るのが苦手なんだ。〉
「……。」
〈棗…昔から人の愛情に飢えてて…〉
「それを俺に話して何になるの。」
彼の言葉を遮って、苛立ちのまま言い放った。
彼は黙り込み、俺の隣に腰を下ろした…
〈ごめん…昨日の事も…今朝の事も…〉
「………君は棗先生の事が好きなんだよね。なのに何でも言うことを聞いて、昨日の様な事もしてしまうの?」
〈棗が…望むものは何でも与えてあげたい…それが俺の役目だから。〉
「役目…?」
〈………。〉
横目で彼を見ると、優しく…それでいて悲しく微笑んでいた。
何だか…先生に出会った頃を思い出す…
あの頃の先生と同じ表情をしている。
「君は……桐生君は、それで良いの?」
〈………うん。〉
「嘘だね…」
〈……本当は俺も嫌だった、でも棗は…俺の大切な人だから…〉
「大切な人、ね…」
〈ごめんね、棗が居なければ触れたりしないから…〉
「そうしてくれるとありがたい…かな。」
〈うん…。〉
窓から射し込む太陽の光が、色素の薄い壁の髪を照らす。
眩しくて…目が痛む…
彼の優しさも…報われる日が来るだろうか。
それも俺次第なのだろうか…
また出そうになった溜息を飲み込み、身体を起こす。
「君はどうしたい?」
〈え…?〉
「君の意思だよ。」
〈お、れは……〉
「………。」
〈俺は…棗に幸せになって欲しい。けど……けど、その相手が俺じゃないのは少し嫌だ。〉
「じゃあさ、俺達組もうよ。」
〈組む…?〉
「俺は先生を取られたくない。桐生君は棗先生が欲しい。利害一致してない?」
〈うん…〉
「じゃ、そういう事で…連絡先交換しておこう。」
素早くやり取りを終え、俺はやっと生徒会室から出た。
すると、ちょうど先生が来た…
「あ、先生…」
『…ん?』
先生の鋭い視線は、俺の後から出てきた桐生君に向いていた。
次第にその表情は曇っていき…なんとなく先生の思惑が伝わってくる。
コイツがヤッたのか…と、そんな目を向けて来た。
先生にも説明をしてあげたいけど、今はまだ駄目だ…
『………。』
〈………。〉
しばらく二人は見つめ合い、桐生君の方から目を逸らして去って行った。
残された俺と先生…
『今朝授業に居なかったけど…大丈夫か?』
「うん…平気です。」
『…そうか。』
少し冷たくし過ぎただろうか…
俯きながらそんな事を考える。
対する人は何だか起こっているみたいで、穏やかな雰囲気は纏っていない。
「じゃ、じゃあ…教室に戻りますね。」
『………。』
「あの…先生…?腕、痛い…」
すれ違う瞬間、先生が俺の腕を掴んだ。
しかもかなりの力で…痛い…
思わず顔を顰める。
『………。』
「せ、んせ…?」
『何かあるのか。』
「え…」
何かと言われても…
説明出来ない俺にとっては、中々の痛い質問だ。
狼狽える俺を先生はまだ、鋭い目で見つめる。
「ご、ごめんなさい…今はまだ…」
『………今はまだ?っんだよそれ。』
「………。」
何も話さず、ただ俯く俺に先生は舌打ちをした。
頭を乱雑に掻き、溜息を吐いた。
先生が纏っている雰囲気が怖い…
「先生…」
『あ?』
「怖い、です…」
『…っ……ごめん、ちょっと余裕無かった。』
「………。」
離れた腕がまだ熱を持つ。
熱くて…痛くて……
『叶の奴、大量に仕事増やしがって……今日は帰るの遅くなりそう。』
「はい…」
『夕飯、楽しみにしてるからな。』
ふわりと微笑んだ先生は、いつもの先生で…
優しく頭を撫で、去ろうとする背中に向かって声を出した。
「待ってます!ちゃんと…美味しく作って。」
『……ん。っしゃ、頑張れそう!』
大声を出して、周囲を確認する。
良かった…人が居なかった。
自分達で隠してるんだ、バレるような事は控えないと…
《………。》
足取りが軽い…
教室に帰ったら日下君に謝らないと。
そしてノートを写させてもらおう…
今日の夕飯は何にしようか…
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