アダルトコンテンツが含まれます。
18歳以上ですか?
- 文字サイズ:
- 行間:
- 背景色:
-
・
-
「はぁ…っ…はぁっ…」
喉から血の味がする。
何で…っ!
どうして!
棗先生が居ない時は何もしないって言っていたじゃないか!
「うぁ…っ!…つっ…」
派手に転んだ俺は、掌と膝を擦り剥いた。
痛みに嘆いてる暇はない、急いで立ち上がり駆け出す準備をする。
〈大丈夫…?〉
「…っ!」
〈………。〉
目の前に立った桐生君は、ノートとペンを取り出して何かを書き始める。
‐〈ごめんね、録音されてるんだ。〉‐
録…音……?
暫く呆ける俺を申し訳無さそうに見つめる。
「………。」
録音されているならもう、どう仕様も無い…
これ以上穢れたくも無い…けどっ…けど先生も守りたい。
どうしたらいい?
どうするのが良い?
頭の中で色んな考えを駆け巡らせる。
〈行こう…〉
「………。」
腕を捕まれ、立ち上がされる。
力無く歩を進める俺を、少し心配そうにしながら桐生君が顔を覗き込んだ。
‐〈大丈夫、君には触れない。〉‐
じゃあ…どうするんだ。
録音されている状況で、触れないなんて無理だろ…
家に着くなり、ベッドに放られる様にして離された。
触れないなんて言っていた癖に…っ
そう思いながら彼を睨むと、徐に携帯を操作し始めた。
「…?」
画面をこちらに向けると、そこにはしっかりと録音されている証拠があった。
‐〈リビングに行って。〉‐
「…っ…」
演じろ…と?
軽く頷き、俺は勢い良く飛び出した。
〈…待って!〉
「!」
声を荒げて追い掛けて来る桐生君…
何をどうするつもりか分からず、何より一番理解出来ていない俺はリビングでは無く…風呂場へ逃げた。
〈逃げても無駄だよ。〉
「う、うるさい!」
近付いてくる桐生君は、とても演技とは思えない程だ…
後ろに下がって行くと肘に何かが当たった。
「わっ…!」
上からお湯が出て、俺と桐生君はびしょ濡れになった。
彼はそれが狙いだったのか、にこやかに微笑むとポケットから携帯を取り出した。
〈あ…っ…クソッ…〉
「………。」
シャワーによって、携帯は水没した。
これで録音は出来ない。
〈………。〉
「携帯…良いの?」
〈うん…だって、触れないって約束したから…〉
「…棗先生には何て…」
〈逃げられた先が風呂場だった、録音は出来て無いけどちゃんとやったよ…って言う。〉
「…………。」
棗先生に忠実な彼が…ここまでしてくれるなんて…
俺はシャワーを止めて、風呂場から出た。
「ごめん…そのまま、お風呂入って。風邪引いちゃうから…」
〈…うん、ありがとう。〉
タオルを脱衣所の台に置き、自分も拭きながらリビングに向かった。
結構濡れてしまった…
俺も後で風呂に入ろう、そう思いながら水分を吸って重くなった衣服を脱いだ。
まだ痣が残っている…痛くはないけれど、早く消えて欲しい。
自分にもっと拒否力があったら…あんな事…
「………。」
ごめんね、先生…
ごめん…
〈倉沢君…これって何………泣いて、る…?〉
「ご、ごめん…えっと…その…」
〈どうしたの?痣が痛い?ごめんね?湿布貼る?〉
「いや、あの…大丈夫だから…」
俺の腕を掴み、顔を覗き込んでくる桐生君。
お互い上裸で何をしてるんだ…
すると、玄関の鍵がゆっくりと開いた音がした。
「あ…」
不味い、先生が帰ってきた。
手を振り解こうと藻掻くが、彼には聞こえてなかったのか全く聞く耳を持たず…
ひたすら謝罪の言葉を述べながら覗き込んでくる。
「ちょっ…一回離し」
『何してるのかな。』
「あ…せん、せ……」
血が一気に下へ降りていく…
先生の声を聞いて、桐生君はやっと気が付いたのか手を離した。
その瞬間、先生は俺を引き寄せた。
『…君は?』
〈……桐生、です。〉
「せ、先生…これは違くて」
『勇間は黙ってろ。』
「…っ…」
〈何もしてないです…本当に…〉
『これについては?』
そう言って先生は、俺の痣だらけの身体に触れた。
桐生君の顔は固くなった…
『………。』
〈最初の時…のです…〉
その言葉を聞いた先生は、目を細めた。
すごく怒っているのが伝わってくる…
俺は先生の腕の中で、謝罪の言葉をずっと唱え続けた。
ごめんなさい、俺がもっとちゃんと警戒していたら…拒否していれば…ごめんなさい、先生…ごめんなさい。
『……そう。』
〈でも、それ以降は本当に〉
『黙ってくれるかな、それ以上は聞いてない。』
〈…っ…〉
『勇間…』
「は、はい…」
『俺が関与しても良い内容なら、今ここで彼の口から全て吐き出させる。』
「………。」
『駄目なら自分で何とかしろ。』
「はい…」
『………。』
「先生、あのっ…」
『何…?』
優しい表情をしている…けれど、その瞳の奥は微塵も穏やかではなくて…
あの日以上に冷たい。
「ごめん、なさい…」
『うん…』
何も写していない瞳が、俺を射抜く…
先生を失望させてしまった。
先生を哀しませてしまった。
先生に…
嫌われてしまった…?
現在の設定
文字サイズ
行間
背景色
×
68 / 244