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その後桐生君は帰り、重苦しい雰囲気の中俺と先生は一言も話さずに食事をしている。
何度か先生を盗み見ているが、目は合わない…
「………。」
『………。』
先生…怒ってる…
食べ物が喉を通らない。
誤魔化すように、水で飲み下す…
「あの…先生…」
『ん?』
「あ、の…えっと…」
話し掛けたとしても内容なんて考えてない。
戸惑う俺をただ見つめる先生…
なんて言おう…
「さっきの、事…についてなんですけど…」
『うん。』
「あの……」
『………。』
押し黙った俺を見て、先生は静かに溜息を吐いた。
『さっき言ったよな…俺が関与しても良い内容なら、今ここで彼の口から全て吐き出させる。って…でもお前は黙った。』
「……そ、れは…」
『自分で何とかするんだろ?それなら俺は何も聞かないし、言わない。』
「……っ…」
確かに、自分でなんとかしなきゃって思ってる。
目的は俺じゃなくて先生なんだから…
もし…先生に話した事がバレたらきっと…きっと…。
俺は先生が大切だ。
先生が何よりも必要だ。
笑ってて欲しい。
ずっと…ずっと…
『………。』
「先生は…今幸せですか…」
『勇間…?』
「先生は…っ…教師になれて良かったですか?」
『うん…良かったよ…』
「先生は……ずっと、あの高校に居たいですか?」
『……勇』
「先生は俺が守るから…っ!」
『待て勇間、落ち着け…お前…もしかして…』
「……っ…」
零れそうになる涙を堪らえながら、先生を見つめる。
喋ってはいない。
だから大丈夫、先生は俺の思いを分かってくれる。
『勇間……そうか…お前…』
「ごめんなさい、言えなくて…っ…ごめ、なさ…っ…」
『…桐生だけか?』
「……っ…」
首を横に振ると、先生は浮かない顔をした。
思いあたる人が居るんだろうか…だとしたら、棗先生との関係は一体…
『勇間…もし今以上に危害を加えられたら、ちゃんと教えてくれ。』
「…っ…でもっ」
『俺はお前を失いたくない、絶対に。』
「………。」
『棗…だな?』
「…っ……」
ゆっくりと頷き、顔を上げる。
溜息を吐いた先生の顔は、とても怖かった…
額に手を当てて何かを考えている。
「先生…」
『ん?』
「棗先生と何か…」
『…うん、そうだな…話さなきゃな…』
夕食を終えて食器を洗い終わった俺は、お盆に乗せたコーヒーを手に先生の所へ向かった。
「先生、入りますね…」
『ん、どーぞ。』
ノックをして、お盆をサイドテーブルに置いた。
どこに座ろうか悩んでいると、先生は自分の隣を叩く。
どうやらここに座れと言う催促らしい…
大人しく隣に腰を下ろす。
『コーヒー淹れて来てくれたんだな、ありがとう。』
「あ…夜はブラック派でしたよね?」
『ん、そうだよ…流石勇間、分かってくれてるね。』
「茶化さないで下さい…」
少しだけ熱くなった頬を手で仰ぐ。
今から先生に話さなければならないんだ…そう思うと緊張にしてしまう。
ふ…と、一息吐いて先生を見つめる。
「先生は…」
『ん?』
「今、幸せですか?」
『………。』
驚いた表情をした先生は、暫くして優しく俺の頭を撫でながら微笑んだ。
『当たり前だろ…俺は勇間が隣りに居てくれるだけで、充分幸せだ…』
「………。」
『こうして笑い合える毎日も、全部幸せだよ…』
「…うん。」
眩しい笑顔でそう言い放った先生は…あの頃から何も変わらない。
俺の為に色んな事をしてくれる…
俺が迷えば、必ず道を示してくれる…
「俺も…先生が居てくれて幸せです。」
抱き締めれば、俺よりも強い力で返してくれる。
嗚呼、この人と出会えて良かった…毎日そう思える…
けれど…今から俺は先生に話さなければならないんだ…
桐生君との事を…
そう思うと緊張してしまう。
ふ…と息を吐けば、震えていた。
嫌われてしまうのだろうか…
軽蔑されてしまうのだろうか…
考えれば考える程、眉間にシワが寄っていく。
『勇間。』
「は、はい…」
『俺、勇間が淹れてくれるコーヒーが一番好き。』
「……。」
『どんどん上達してく手料理も全部。』
俺の考えてる事が分かっているかの様に、先生は優しく話しかける。
「先生…」
『ん?』
「………。」
『大丈夫、どんな事があっても…俺は勇間の味方だよ。』
優しく…
諭すように先生は言い放った…
「あの日、俺が鍵を落としてしまって…それを拾ってくれたのが桐生君でした。最初は優しい人だって思ったんです…でも、目が笑ってなくて…なるべく早く部屋に入ったんですけど…」
『………。』
「扉が閉まる瞬間、彼は押し入って来ました…これから何が起こるのか察してしまって、勿論抵抗はしました。でも…彼は言ったんです。」
『………。』
「今頃あの人は女の子と楽しくやってると思うよ…って、俺っ…馬鹿だったからその言葉を鵜呑みにしちゃって…」
『………。』
「…抵抗したら殴られるし、もうどうでも良くなっちゃって…大人しくしました。」
『………。』
「でも、身体が拒否反応起こすから…縛られて…」
『それが…あの時の、か…』
「はい…」
コーヒーを一口飲み、少しだけ乾いた喉を潤した。
身体を許してしまった事実は、どんなに足掻いても変わらない。
先生を信用せずに、あんな言葉を安易に信用してしまった。
一番愚かなのは、俺だったのかもしれない…
「その後、先生とあの女の子の事が分かって……だから、自分でなんとかしなきゃって思って登校してすぐ、生徒会室に向かいました。」
『………。』
「そこには桐生君と棗先生が居て…」
『やっぱり…棗か…』
先生は苦虫を噛み潰した様な顔をした。
どうやら心から棗先生が苦手みたいだ…
先生がこんな風になるなんて…一体何があったんだろう…
何を…されたんだろう…
いや、今話している事に集中しなきゃ。
「先生と、屋上で初めてキスした日の…アレを棗先生は撮ってたみたいで…それを俺に見せて言ったんです。」
『………。』
「これがバレたくなければ、桐生君との行為を続けろ…って…」
あの日の棗先生の目が鮮明に浮かぶ…
何も映さない…黒く…深い瞳…
「桐生君は、棗先生に忠実で…最初の時のも棗先生が…」
『………。』
「でも、棗先生の本当の狙いは…」
『俺だろ…』
「はい……先生が自分を見る様にしろって…」
『…はぁあ…』
先生は長い溜息を吐き、顔を両手で覆った。
俺はそれを横目に、コーヒーをまた一口飲んだ。
「俺、先生を取られたくないから…桐生君と手を組んだんだ。」
『……まさか、桐生君…』
「ふふっ、そうなんです…棗先生が大切なんですって……だけど、今桐生君がしてる事は自分にも…棗先生にも利益は無い…」
『…………。』
「彼は彼なりに対策を取ってくれてるみたいです、棗先生が居ない時は触れない…とか。」
『でもあの時…』
「あれは…録音されてて、桐生君の案で水没させようって…本当はなんか…こう…誤魔化してやるつもりだったんですけど…俺が思いの外テンパっちゃってて。二人してシャワーの水を浴びて……風邪引くと申し訳無いから、桐生君にはお風呂に…その間に色々考えてたら涙が出ちゃって…」
『あぁ…だからか……』
「はい…」
『あー……俺凄い勘違いしてた…ごめん…ほんと……』
「大丈夫です…知らなかったらそうなるのも可笑しくないですもん。」
何だか心が軽い…
やっと話せたからだろうか。
『問題は棗か…』
「………。」
『…俺と棗はな、昔からの付き合いなんだ。』
「昔から…」
『そ、叶よりも前………出会って暫く経った頃アイツがイジメられてるのを知って、俺はそれを見過ごせなかった。見付ければ話しかけに行ったり、イジメられてる時は必ず助けた…そしたら気付いたらずっと一緒に居る様になった…』
ずっと…一緒に…か。
何だか、今の俺と先生みたいだ…
『棗は俺に依存してたんだ……俺が他の奴らと遊べば、必ず怒ったし…泣いたりもした。自分の事がどうでも良くなったんだ…って。』
「………。」
『勿論、俺はそんな事は思ってなかったから…アイツが落ち着くまでまた一緒に居たり、毎日それの繰り返し。』
「………。」
『次第にそれが鬱陶しくなって…俺は棗よりも、他の奴らを優先した。』
先生が一口、コーヒーを飲む…
マグカップを両手で包み込み、じっ…と見つめている。
重苦しい溜息が、震えていた。
さっきの俺と同じだ…きっと思い出す事も嫌なのだろう…
『………棗は、俺の周りに居た奴らに…危害を加え始めた。』
「…っ…!」
『最初は、嫌がらせ程度だったんだ…でもそれが段々エスカレートしてって』
先生の口調が早まっていく。
顔も青い…
『棗は』
「先生…っ…」
『………。』
普段の先生とは思えない程、震えている。
不安になって思わず話を遮った…
「先生…無理、しないで…」
『………ごめん。』
「ううん、大丈夫…大丈夫です…」
優しく先生を抱き締める…
嗚呼、何だか先生が小さい…今にも消えてしまいそうだ。
頭を胸へと抱き込み、優しく髪を撫でる…
大丈夫…大丈夫、と言い聞かせる様に。
『俺…棗があの高校に居るの……知ってたんだ…』
ポツリと再び話し始めた先生…
俺の背中に手を這わせ、キツく服を掴んでいる。
震えは落ち着いたものの、声は弱々しい…
話そうとしてくれるのは嬉しい…でも、無理をさせてまで聞きたくはない。
「先生…話したくなかったら良いから…」
『…このまま、聞いてくれ…』
「…っ……分かった…」
胸が締め付けられる。
こんなにも…こんなにも先生を追い詰めていたなんて…
俺は知らなかった…
まだ何も…先生の事を知らない。
それを知るのがいつも遅くて…嗚呼、歯痒い…
『あの時、棗が俺の友人を殺した様に…またそうなるのが怖いんだ…』
「え……」
棗先生が…
人を…殺した…?
先生の…友人を……棗、先生…が?
頭を鈍器で殴られたかの様な、そんな衝撃が巡った。
『でも、どんなに歩き回っても一度も出会う事は無かった…だから忘れかけてたんだ…アイツの存在を…』
「………。」
『勇間と出会って…やっと……なのに、なのにまたアイツが…』
「………。」
『人を、殺したら……勇間を殺してしまったら……っ』
ガタガタと震え始めた先生を、より一層強く抱き込む。
背中を擦り、落ち着かせようとするが…先生は嗚咽を溢しながら涙を流した。
嗚呼…今度は俺が守らなきゃ…
先生は、俺が守るからね…
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