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「はぁ……」
〔おはよ!勇間!〕
「おはよう…」
〔どした?なんか…窶れてるけど…〕
「あぁ…うん…」
〔やっぱ…無理そう?〕
「えっ…あ、違うよ!大丈夫!」
〔そっか…〕
心配そうな日下君を宥め、少し溜息を零す。
朝から過激だった…
先生を放って置くのは不味い気がする、今朝思い知った…
もちろん自分もだけれど。
嗚呼…恥ずかしい…
〔本当に大丈夫か?顔真っ赤だけど…〕
「ゔっ…いや、大…丈夫…」
〔……あ〜…なるほど。〕
「え?」
〔勇間、真面目だけどシャツはそんなに上まで閉めないし…朝は真羅先生に支えられながらの登校…つまりぃ〜…勇間はとうとう真羅先生と〕
「あー!!」
〔モガッ…んー!!んっんん!?〕
「うるさいうるさいうるさい!!」
ニヤニヤと微笑む日下君の口を抑え、それ以上周りに聞こえないよう大声で掻き消す。
確認しなくても分かる…今俺すっごい顔赤い…
〔赤飯炊く?〕
「もー!!日下君!!」
〔あっはははは!!!〕
教室を走り回る俺達を、クラスメイト達は遠巻ではあるが…楽しげに見つめている。
その中に少しだけ、驚きの色もある…
まぁ…俺が走り回るのなんて珍しいか…なんて思いながら、日下君を捕まえた。
「許さない…」
〔ごめんごめん!〕
「謝っても駄目!」
〔良いなぁ〜俺もいつか……〕
〘なあなあ!〙
急に現れた生徒に少し驚く…
日下君は、笑いながらも俺の前に立ち塞がってくれた。
〔どうした?〕
〘今日放課後、合コンあるんだけどさ〜人足りなくて!良かったらお前ら来ない?〙
「………。」
固まる俺…
ご、合コン…って…
〔ん〜…〕
〘頼む!〙
〔……考えとくわ。〕
〘さんきゅ!!〙
笑顔で去って行った生徒は、自分達のグループに戻って何か話し始めた。
え…行かなきゃ…ならないのかな…
〔勇間は無理して来なくても良いからな?適当にあしらって俺だけ行くから。〕
「えっ…でも叶先生に怒られない?」
〔まぁ…そこら辺はなんとか説得するし…〕
「………それなら俺も」
〔いやいや、勇間がそんな場所に行ったら…真羅先生に俺が殺されちゃう。〕
「それこそ叶先生なんじゃ…」
呆れながらも、作戦を練ろうと考えた…
お酒は流石に…高校生だし飲まないよな?
「…………。」
〘はいはーい!俺、バスケ得意っす!!〙
〈イイねー!私もバスケ好き!〉
飲まない…と思ってたのに…
相手はまさかの大学生。
俺と日下君以外は…呑んでしまっている。
いくら学校から離れてるとは言え、バレたら…と一人で焦っている中、話題はコロコロ変わっていく。
〈ね、勇間君は?〉
「えっ!?…あ、えっと…」
〈やだ〜可愛い〜〜っ!!〉
大人の女の人は苦手だな…
金切り声に聞こえて…母さんを思い出す。
俯く俺に伸ばされる手…身が固まる。
〔っと、すみません…お触り禁止で〜す。〕
〈え〜?ナニソレ!じゃあ日下君は良いの?〉
〔…さあ?〕
流石日下君…女の子の扱いは慣れてる。
触ろうとする手を、軽くあしらいながら躱して…
機嫌を損ねないように、優しい物腰…
呆けている俺は、一人だけ大人しく食事をする女の人を見つめた。
前の席に座って…そう言えばあんまり喋ってないような…
人数合わせ…なのかな…
すると、急に顔を上げた彼女と目が合ってしまった。
「っ!」
慌てて目を背けると、目の前にグラスを差し出された。
飲め…って事かな…
見た感じ烏龍茶っぽいけど……
恐る恐るそれを手に取ると、満足そうに微笑み食事を再開した。
「………。」
差し出された物を無下には出来ないし…仕方なくそれを飲み下した。
そして気付く…これ、お酒……
「う……」
〔ん?どうした?…って、顔赤!?〕
〈酔っちゃったの〜?大丈夫?〉
〔まさか…呑んだ?!〕
「うぅ……」
〔帰る?〕
「ん…ぅ…」
ふわふわとした感覚が、心地良いような…気持ち悪いような…
[お前ら…何してんだ?]
〔ぅわっ!?か、かなちゃん!?〕
[………ほぉ?]
〔あのっ!これは…ちょっと、えっと違くて!!〕
叶…先生の声が…?
声の方を向くと、確かにそれっぽい人が…
でも何でここに?
〈え?なになに??この人誰?めっちゃイケメンじゃん!〉
{同じ大学生!?}
〘あっ…いや、その〜…〙
[………。]
何かを察した叶先生は、俺達の席に近付き笑う。
今までに無いくらい良い笑顔だ…
[すみません、うちの"生徒"が…]
{えっ…?}
[同じ"学生"だったら文句は言えないですよね〜。]
〔………。〕
[まぁでもこの子ら、高校生なんで…因みにどちらの学生さんでしょうか?]
〈高…校生!?ちょっ…聞いてないんだけど!!私ら大学生って…〉
[顔立ち見たら分かるはずですけどねぇ?あぁ、それとも年下がお好みで?]
怒ったのか、気不味くなったのか…女の人達は去ろうと荷物を纏め始めた。
そこへもう一人誰かが来た。
あれ…まさか…
認識した途端に、血が下がり…一気に視界が良好になった。
『どうした?叶……ん?勇間…と、日下君?』
[…まぁ、お察しの通り。]
『……なる程な。』
溜息を吐いた先生は、青ざめる俺達を一瞥してから女の人達の方を見た。
目が合った一人がどんどん顔を赤らめていく…
何だかそれが気に食わない…モヤモヤする…
『もう夜も遅いですし…お開きにしては如何でしょう?』
〈は、はい…〉
『これに懲りず、是非良い出逢いをして下さいね。』
[おい…]
そそくさと立ち去って行き…取り残された俺達は、先生達の圧によって顔を上げられずに居た。
相手が居なくなった目の前の席に腰を下ろし、まじまじと見つめてくる…
[これ…酒じゃねぇか…お前ら呑んでねぇよな?]
〈………。〉
「………。」
〔……呑んでな〕
[嘘付いたら後が怖いぞ〜…]
〔俺と勇間は……呑んで無いというか……あ、いや…勇間は間違えて…ちょっと…〕
[お前…"ちょっと"なら何しても良いのか?あ?]
〔ゔっ…〕
『………。』
[お前も何か言えよ…]
『ん〜…そうだなぁ…』
ふ、と目が合ってしまった…
瞳から感じられるのは怒りよりも…嬉しさ??
良く見つめたら、俺じゃなくて…首元を見ている………あ。
そう言えば着けてた。
まさかそれだけで…怒らない??
『うん、じゃあ言わせてもらおうかな。』
そんな事は無かった。
普通に怒ってる。
俺の勘違いだった。
急に殺気に近い圧が…
『お前らが出逢いを求めてるのは充分、分かった…でもな?お酒は駄目だ…何かあった時、俺達は救えない。』
「…………。」
『今こうして、たまたま居たから止められたけど…もし俺達がここに居なかったら、お前達はどうなってたと思う?』
〘えっ…と…〙
『まぁ、仮定の話だけど…もしかしたらこの後、暴力沙汰や事故に巻き込まれてたかもしれない。酔った勢いでやる事やっちゃって、実は向こうの誰かに彼氏さんが居て…って事もあるかもしれなかった。』
〘………。〙
『それにここは、遊楽街だ…いろんな奴らが居る。必ずしも安全だとは言い切れない場所だ…言いたい事、分かるか?』
〘はい…〙
『ハメを外し過ぎるのも良くないし、大抵こういうとこで出逢ったら良い結果になるとも限らないし…な?叶。』
[なんでそこで俺に振る……まぁ、兎に角…もうお前らは帰って寝ろ。後の事は反省文を書くなり何なり、処置を決める。]
重苦しい雰囲気になり、誰も言葉を発さなくなった。
俯く俺達に、また深い溜め息を吐いた叶先生…
なんか気持ち悪くなって来た…
「ぅ…っ…」
[はぁ……取り敢えず水飲め。]
「す、みません…」
叶先生が店員に水をオーダーし、暫くして直ぐに運ばれて来た。
それを受け取り、冷えた水で何とか酔を覚まそうと飲み干す。
『……言っておくが、俺達は相当怒ってるからな。』
〔はい…すみませんでした。〕
その後、親を呼ばれた彼は怒られながら帰宅して行った。
残された俺達は…また別の立場で怒られる覚悟をする。
〔あの…叶せ〕
[あ?]
〔ナンデモナイデス。〕
[……ちょっと面貸せ。]
〔ウィッス。〕
少し離れた場所へ連れて行かれる日下君…
無事を祈りつつ、俺は先生と一緒に車へと先に乗り込んだ。
なにも発さない先生から、無言の圧力…
『勇間は…何であそこに?』
「あっ…え、っと…数合わせで…日下君と呼ばれて…」
『………。』
「………。」
『お酒を呑んだ理由は、日下君が言ってた事で間違い無いか?』
「は、はい。」
『…ん、それなら安心した。』
「え…」
『勇間が自分から進んで、あんな所に行くなんて思えないから…まぁ、ちょっと焦ったけど。』
「す、すみません…断りきれなくて…」
『うん…大丈夫。』
「………。」
落ち込む俺の頭を撫で、微笑む先生。
許してもらえたか分からないけど、少し安堵する。
自分が逆の立場だったら…と、考え…そう言えばさっき嫉妬してたな…と一人で納得してしまった。
先生は…凄いな…
『…本音は…ちょっと…いや、かなり怒ってた。もちろん、一生徒としてでもあるけど…自分の大切な人が女の子と楽しむって、やっぱり嫌だよな。』
「ごめんなさい…」
『謝らなくていいよ、だって勇間…着けてくれてたから。』
「あ……」
『それだけで、怒りなんて吹っ飛んでった。』
対する先生の指にも…同じリングがキラリと光っていた。
恥ずかしいけれど、今回はこれに救われたな…と思ったり。
「………。」
『酔は大丈夫か?』
「あ、はい…なんとか……俺、お酒嫌いなんだなって分かったんで良い経験でした…」
『はははっ!ま、それも慣れだよ慣れ。呑める年齢になったら一緒に慣れてこうな。』
「…はい…!」
『ん、叶達来たな…』
先生の目線を辿り、向けると…日下君の表情は何とも言えない感じになっていた。
嬉しさと…悲しさと…色々が混じってる様な…
叶先生はやっぱり怒ってて、目元も軽く赤い…
『…叶にとっちゃ、二回目だからな…』
「え?……あ…」
言われて気付いた。
つい最近まで、彼は女の子達と遊んでたんだ…
嗚呼…俺がもっと強く引き留めておけば…こんな事にはならなかったかもしれないのに。
『大丈夫、勇間のせいじゃない。』
「っ…はい…。」
『重く考えなくても、あいつらはあいつら成に頑張るだろうよ…ほら、日下君が機嫌取りしてる。』
「……ふふっ…ホントだ…凄い必死ですね。」
『多分それに叶も……あーあ、絆されちゃったな。叶完敗…』
先生が変にナレーションするから、思わず笑ってしまった。
『結局惚れた奴には敵わねぇのよ。』
「そうですね…」
『次もあったら、行く前に相談してな?どうしても行かなきゃならないって場合とか、迎えに行くし。』
「はい。」
『ん……よし、もうこの話は終わり〜。』
そう言って、抱き着いてくる先生を受け入れる…
『お、あっちも終わったみたいだな。』
「…え、なんか…日下君泣いてません?」
『日下君だけじゃ無くて、叶もだな…』
「大丈夫ですかね…」
『まぁ、あれ以上ヒートアップしそうだったら止めに入るよ。』
先生がそういった瞬間、叶先生が日下君に抱き着いた。
あまりの出来事に…目が反らせず、空いた口も塞がらなかった。
『勇間…顔…』
静かに笑いだした先生に指摘をされ、慌てて口を閉じた。
二人の関係は理解してるけど、叶先生のあんな姿を見るのはやっぱり慣れない…
あんな…可愛らしい姿…
思わず顔が熱くなった。
『嫉妬するな〜…?』
「えっ、あっ…すみません…でも、新鮮過ぎて…」
『まぁ…いつも眉間にシワ寄せて怒鳴ってる奴だからなぁ。』
「………。」
『あんな顔する様になったのも、日下君のお陰だ……』
「はい…」
『友人として、嬉しいわ。』
そう言って、笑った先生は…本当に嬉しそうだ。
その感情が俺にも感染って、嬉しい気持ちになる…
日下君は凄い…
周りの人に笑顔を届けてくれる…
勇気を届けてくれる…
人の愛情を教えてくれる…
なら、俺はどうだ?
「っ!」
『勇間?』
「あ、だ…大丈夫です。」
『………。』
また、だ…
昨日聞いた声…
他人の様な…自分の様な…誰かの声。
「………先生。」
『ん?どうした?寒いか?』
「い、いえ…やっぱり何でもないです。」
言えない…
言うとしても、何で伝えたら良いのか…分からない。
知らない誰かなのに…
知ってる気がして…
自分の様な気がして…
怖い…
俺は…俺は…
『勇間…?』
「………。」
俺は…この声が言ってる通りの人間なのだろうか。
あの頃から変わらない…
弱くて…逃げてばかりの…
確かに、周りと比べたら変わってないかもしれない。
隣に居るだけで、変わった気になっていたのかも…
『勇間?』
「あ、はい…」
『大丈夫か?ぼーっとしてたけど…まだ酔ってる?』
「…そう、かもしれないです…。」
『……早く帰ろうか。』
「はい…」
〔ごめんごめん、お待たせ!〕
『解決したか〜?』
「ちょ、先生…!」
〔うん、したした。超解決した。〕
『そりゃ良かったな、んじゃ帰るぞ。』
目元が赤い二人は、暫くしてお互いに寄り添いながら寝てしまった。
流れていくネオンの光…
窓ガラス越しに見える、先生の横顔…
そっと、心の中で謝罪をした。
ごめんね…先生…もしかしたら俺、駄目かもしれない。
状況の整理が付いたら、ちゃんと話すから…
ごめん…ごめんなさい…
移り変わる景色を眺め、そっ…と瞼を閉じた。
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