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長かった体育祭も無事閉会式を迎え、終わろうとしていた。
最後のリレーでの上月の活躍もあり、赤組の優勝が決まった。
執行部の皆や実行委員会の人たちが片付けを始めている中、怪我をしている俺は何もできず、迎えが来るまでただただすみの方でぼさっと待つことしかできなかった。
あんなに真っ青だった空は、オレンジに染まって、夏の夕方の匂いがする。
手持ち無沙汰に空を眺めるが、頭に上るのは今日のあいつの姿ばかり。
今日見た上月のいろんな表情が目に焼き付いていて、空に浮かんでは消えていく。
そのうち保健室でのことも思い出して、カァッと全身が火照った。その感覚を振り切るようにブンブンと頭を振ってみるも忘れられそうにない。無理だ。
だめだ、どうしよう、
「…好き」
ぽそっと口に出せば、さらに気持ちが溢れるようで胸がギュッとする。おもわずつまる息を吐き出した時、
「…なーに百面相してんだ?」
「っひえ!!!こ、こ、うづき…」
頭を占有する人物が顔を覗き込んできたのだった。驚いて素っ頓狂な声をあげてしまう。
「そんな驚かなくてもいいいだろ」
「だ、だって………」
まごまごする俺にあまり構うことなく、上月は当然のように隣に腰を下ろす。
「お、お前…片付けあるだろ」
「ちょっとくらい抜けても大丈夫だっつの」
「お前なぁ…」
不真面目な上月を叱責しようと顔を上月の方に向けると、じっと俺を見つめる上月と目が合い、思わずたじろぐ。
「…はるが一人ぼっちで寂しそうだったから」
ぽそっと呟くように言って、首をこてんと傾ける上月。
その破壊力に心臓が変な音をたてた。
「さ、寂しくなんか…ねーし…」
なんとかモゴモゴと紡ぎ出した言葉は我ながら可愛くない。
「俺が来て、嬉しいくせに」
悪戯っぽい笑顔を浮かべながら
可愛くない言葉をものともしない、自信過剰ないつもの上月の言葉、
ただそれは俺にとっては図星で、ますます返事に困る。
いつも通り振る舞おうと、反論の言葉を言おうにも言い澱んで、
「……………う、うれしいよ」
結局ポツリと本音を漏らすしかなかった。
好き、の気持ちが溢れて、その気持ちが行き先を求めて、すがるように控えめに上月の裾をきゅっと摘んだ。
恥ずかしさで死にそうになりながら、恐々上月を見ると、上月も顔を赤くしてこちらを見つめていた。
「…握るならさ、こっち握ってて」
ぼそっとそう言われて、裾を握った手が上月の手によって握られた。
心臓がまた変な音を鳴らすのがわかる。
手にじわっと汗が滲んだ。
「ん…うん…」
コクコクとうなづくので精一杯。
俺の手を包む上月の手から上月の体温が伝わってくる。
ああ、好きだなぁ…
くすぐったくて、でも愛おしいこの気持ち
噛み締めるほどに溢れ出た。
隣で手を握る上月の顔が見たくて、盗み見ると上月もこっちを見ていて視線がぶつかった。
熱っぽい視線は保健室のあの時を彷彿とさせて、俺は恥ずかしさから視線を泳がせる。
「な、………な、に…?」
泳がせた末に逃げ場がないことに観念して、上月の瞳を覗き込む。
吸い込まれそうなその瞳に灯した、優しくて甘いなにか、目を細めた上月はいつにも増して甘い。
「……今日、かわいすぎてなんかずるいんですけど」
甘い顔で、手をきゅっと握られて
ずるいのはそっちだ…
「…そ、それはこっちのセリフ……お前今日、なんか…か、かっこいい……」
言い淀みながら言い返して、手をきゅっと握り返す
「…んー…?…そりゃ、いいとこ見せたいじゃん…?」
「だ、だれに…」
そう聞き返したところで、またじっと見つめられた。
「っ……」
こ、こんなの期待する…
目が訴えかけてるみたいだ
『おまえに』って…
俺がまた返答に困っていると、ふっと上月は笑った
「リレー、『頑張れ』って聞こえた、おまえの声」
「う、うそっ」
「ほんと。お前の声だけはっきり聞こえた」
そんなことあるわけない、はずなのに…
俺が上月だけを見ている間、
上月も俺だけを見ていてくれたのだろうか。
都合の良い考えが頭をよぎる。
自惚れるな、と思うのに、思う、のに…
頬に上月の手が触れて、上月としっかりと視線が交わる。
「これからも俺だけ見てろよ」
傲慢で、自信過剰な上月
憎らしいはずなのに、向けられた視線はどこか優しくて、どうしようもない気持ちになる。
「こう…づき…」
甘ったるい雰囲気に、このままどうにかなってしまいたいとさえ思う
ずっとこのまま、二人きりで…
「みかどーーーーサボってないで手伝えーーーー」
……そう、うまくはいかないわけで
飛んできた声に俺と上月はびくりと肩を震わせて、お互いからパッと距離を取った。
「今いくっつーのーーーー」
チッと舌打ちして、上月は立ち上がる。
「足、お大事に」
「お、おう」
名残惜しい気持ちを隠す俺を見かねてか、上月は俺の頭をくしゃっと撫でて、微笑んでから走っていった。
「髪……ボサボサになるっつの………」
崩れた髪を直しながら、とまらない何かを噛み締めて俺の体育祭は幕を閉じたのだった。
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