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それはよく晴れたある日のことだった。レオンはその日も、リンドールに来てから日課になった精霊の森の巡回に来ていた。乗馬訓練のために森の前まで共に来た隊員たちは、最初こそ息も絶え絶えになって着いてきていたが、およそ一か月の訓練を経て、最近では少しずつ慣れてきている様子だ。
少し休憩させた後、隊員たちを警備署へと帰し、レオンは精霊の森に入っていく。いつも通りただ道なりに歩いていきながら、視界に見える精霊の光の様子を観察する。最初に来てから一週間は警戒されているような気配があり、少し離れたところからじっと見張られている感覚があった。
しかし、仕事の日も休みの日も、欠かさず森に通い、特に何をするでもなく森を歩いては帰っていくレオンに、精霊たちの様子も少しずつ変わってきたように思う。今は警戒されていたときの緊張感がなくなり、ただひたすらに「不思議そうに見られている」という感じだ。
無理もないか、とレオンは思う。精霊たちからすれば、入れば迷わされて無駄に疲れさせられるだけの森に、飽きもせず毎日毎日通い続ける意味など、理解することは難しいだろう。
これは一般的にあまり知られていないことだが、精霊たちは話せばこちらの言葉を理解してくれる。祈りの言葉を捧げることで、その力を日常的に借りているレオンたちだが、逆にそれ以外の意図で精霊たちに話しかけるという思考にはなりづらく、このことは広く知られていない。
もっとも、生来いたずら好きの性質をもつと同時に、人間の政治や社会には基本的に不干渉の姿勢をもつのが精霊たちだ。人間同士の争いに巻き込まれないため、そして種を守るための永久中立。そんな存在の精霊たちが、人間の言葉を理解したとしても、思うように動いてくれることはまずない。あくまでも中立の立場で、人間にはない「精霊の力」を、人間の「信仰の力」と引き換えに貸してくれるという存在なのだ。
そんな人間の言葉を理解する精霊たちだが、レオンにはわざわざ精霊の森を毎日のように巡回する意味を話す理由はなかった。もうあと二か月の訓練依頼を終えれば、再び王都に戻る身だからだ。
このままあと二か月、何事もなければそれでいい。いつものように周囲に注意を払いながら歩き続けていると、レオンが精霊の森に一か月通い続けて初めて、「いつもとは違うこと」が起こった。
―道の先に、光が見える。
森の入口に戻されたのかと一瞬考えたが、それにしては随分早い。まだ森に入ってから数十分ほどしか経っていなかった。では、あの光は一体何なのか。レオンは眉間に皺を寄せ警戒心を強めると、足音と気配を抑えながら、ゆっくりとその光に向かって歩き出した。
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