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学校一の陰キャが学校一の不良に「諸事情あって」ベタ惚れされた話
第15話 彼ではない誰か
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「…………」
「………………」
誰も、何も言わなかった。
今喋ったのって……誰だ?
天宮、じゃないよな?
いや、声は確かに似てるけどさっきまでのドスの効いたものじゃない、そう、あれは昨日聞いた甘く溶けるような……え?
つまり、天宮の声?
「あの……天宮さん?」
「……」
恐る恐る、声をかける。
天宮はこちらをぼんやりと見つめたまま何も言わない。けれどその頬は、昨日のようにほんのり赤く染っている。
「あ、頭とか……打ってません、でしょうか?」
失礼を承知で尋ねてみる。
昨日のあの状況ならまだ理解出来た。そして今朝の天宮は、特にどこもおかしいようには見えなかった。
それが今、俺の知らない誰かが目の前にいるのだ。
訳が分からないよ。
ぎこちなく首を傾げると、天宮の表情がどんどん崩れて言った。
それは鬼のような形相に変わるとかじゃなくて、むしろ真逆の……泣きそうな顔になったのだ。
「……なんで」
「!?!?!?!?!?!?」
目に涙が滲んでいる。
え?血も涙もないと言われた天宮が泣きかけてる?
え?泣けるの?え?
驚きのあまり言葉が出ない。何が何だか分からない。
多分それはクラスの人も同じなんだろうけど、俺が一番分からないんだ。
「なんでそんな他人行儀な呼び方するんだよ?」
「え?いや、あの……え?」
「優ちゃんって呼んでくれなきゃやだっ!」
まさに駄々をこねる子供のように、天宮がぎゅっと俺の手を握りこみ自分の方へと引き寄せた。
そしてあろうことか頬をすりつけ、小動物のような潤んだ目でこちらを見つめている。
「……」
ガタンと、後方で椅子の倒れる音が聞こえた。
「あっ!山田くんが泡を吹いて倒れた!保健委員の川田くん!」
「……」
「駄目だ……こいつ、座ったまま気絶してる」
後ろからそんな声が聞こえる。
駄目だ。振り返れない。
誰が予想しただろう。俺ではなく教室全体が凄惨な状況になるなんて。
「……ああああ天宮!」
「……」
とにかく、駄目だ。天宮は頭がおかしくなってる。なんでか分からないけどとにかくそうなんだ。
このままここにいれば死者が出る。なんとか遠ざけないと。
そう思い立ち上がり名を呼びかけるが、天宮は不満そうに頬を膨らませた。
「エット…………ュゥチャン?」
「はぁい?」
絞りカスのような声で呟くと、天宮は嬉しそうに笑った。
そう、笑ったのだ。
純粋に、眩しいくらいの笑顔。
「アノ……ココジャナクテベツノトコデハナシマセンカ?」
「春くんが言うならいいよぉ」
この時の俺は、多分ミイラのような顔をしていた。
「じゃあ行こ♡」と手招きをされとぼとぼと教室を後にする俺を、教師ですら止めることはなかった。
遠ざかった後に、何やら絶叫や悲鳴が聞こえたような気がしたけど気の所為だろう。
多分、きっと、恐らく。
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