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「ただいま」
オフィス街の中に紛れて存在するⅡ本社。地下の駐車場でナツと車から下りてエレベーターで最上階まで昇る。最上階まではカードキーがないと行けないので一般人が入ってこれないようになっている。最上階より下は一般人がオフィスに使っていたり店が入っていたりするが地下からカードキーを使って上を目指すときはどの階にも止まらない仕組みになっているので一般人と遭遇することもない。そもそもエレベーターには最上階のボタンがないのでⅡ本社が存在すると悟られることもない。
「おかえりなさい。怪我はありますか?」
エレベーターのドアが開いて正面に受付がある。そこに座っているのはここのすべての人間の出入りを完璧に管理する優秀な女性、高宮瞳(タカミヤ ヒトミ)である。当時12の俺がここに入った頃にはもういて、とても優しく接してもらった。
「怪我は何にもないよ、社長は?」
「先ほどお戻りになられましたよ、社長室にいるかと」
「ありがとう、瞳さん」
再入のところに名前を書いて、奥へ向かう。いくつも扉が並ぶ廊下を歩きガラスのドア越しから中を眺めると仲間たちが作戦を立てていたり寛いでいたりしていた。
そもそもⅡとは一般社会の影に存在するもので、仕事の内容は膨大な金とひきかえにどんなことでも請け負う何でも屋だ。さっきみたいに人を殺せと言ってくる依頼者もいれば、誘拐犯から子供を助けたり、猫を探したり、侵入調査だってする。あ、家も建てたりするよ。人の平和のための最終手段としてとにかくなーんでもする。ここは犯罪経歴があるものやトラウマがあって社会に出れないもの、戸籍が存在しないものたちに仕事を与えてくれる場所で所属している人間はエキスパートばかりだ。
そしてこういう集団は複数存在する。今日出会した赤髪くそ野郎もRIONという会社に所属しているやつだ。ⅡとRIONは昔から仲が悪い。いや、もっと厳密に言うと社長同士の仲が悪い。これが原因で社員同士も敵対しているのだ。仕事を横取りされることが何度もある。まあ結果、報酬はうちに入るんだけど。なんせあのなめられた態度が腹立って仕方がない。
「そういえば社長がサクに長期の仕事の話があるって言ってたね、何だろう」
「ものすごく嫌な感じがするけどね」
「社長から直接受けとる仕事って大体意味不明だよね、俺も一回受けたけど死ぬかと思ったもん」
俺のとなりを歩く彼は瀬戸菜都(セト ナツ)。仕事で一緒に組んでいて相棒のようなものだ。もう5年の付き合いで沢山面倒見てもらったし、仕事もこなしてきた。俺より6つ上のお兄さんだ。長期と言うことで聞いているけど菜都も一緒なんだろうか。
「社長、月代咲良(ツキシロ サクラ)です」
エレベーターから下りて長い廊下を抜けると小さなソファースペースがあり、そのさらに奥に重厚感のある大きな扉が存在する。入室の許可をもらって中に入るとⅡの頂点に立つ社長の部屋だ。中にも高級そうなインテリアが並んでいて俺はこの部屋があまり好きではない。真っ正面にはデスクチェアに優雅に腰をかける男がひとり。そしてその背景はガラス張りの窓越しに見える夜景。
「ああ、咲良、待っていたよ。仕事はどうだった?」
「RIONに持ってかれました」
「あー…、それは悔しいだろうに。菜都もお疲れ様」
「いえ、自分は特に何もしてませんから」
社長、月代藤之(ツキシロ フジノ)は俺の保護者だ。俺の両親は俺が12才の時に事故で死んだ。そこから施設に入り1ヶ月も経たないうちに藤之が俺を引き取ってくれた。理由は教えてくれないままだが本当の親のように俺をここまで育ててくれたのだ。Ⅱに入れと言ったのも藤之だし、俺に人の殺し方を教えたのも藤之。俺は両親からもらった常識と藤之からもらった常識の中で生きている。だから人を助けたいとも思うし生きてる価値がない奴は死ねばいいとも思っている。俺の事を菜都が控えめに言って少し頭がぶっ壊れている、だそうだ。
「菜都、君は今日は上がっていいよ」
「じゃあお先に失礼します。咲良、おやすみ」
「うんおやすみ」
軽く頭を下げて出ていく菜都を見送って藤之に視線を戻す。それで?と本題に入ると彼は社長椅子から腰を上げて応接ソファーに座り直す。
「咲良、座って?」
「長話はしたくないな、早く帰りたい」
「帰る場所も同じなんだから家で仕事の話はしたくないでしょ?ほら座って」
渋々ソファーに座ると満足げに笑われた。
「藤之、長期の仕事って何?」
「華蘭学園に明後日から通ってもらうから」
華蘭学園、て。
「却下」
「君に仕事を拒否する権利はないよ」
「あそこは無理」
「理由は?」
「だってあそこ、RIONの奴らが通う学園じゃん」
華蘭と言えば有名だ。RIONに所属しているものや、その崇拝者たちが通ってる学園。味方は行かなくてもわかる。0だ。軍校のようなシステムがあり、射撃や体術、剣術と、いろいろな訓練が授業に組み込まれていた気がする。俺は勉強は藤之に教えてもらったし、仕事で使う戦闘力はちゃんとあるし、戦術は今の環境のままで充分学べている。藤之がいれば俺は人間として生きていられる。
「藤之、俺と離れてもいいんだ、へぇー……」
「そういう言い方はずるいな。まあ確かにあそこは全寮制だから離れるのは寂しいよ、でも最近こっちの仕事にのめり込み過ぎてるみたいだからたまには同じ世代の子たちと遊んだらいいかなって」
「別にのめり込んでないよ、暇なだけ。それにしてもなんで華蘭なの、もっと平和なとこに入れてよ」
「いい暇潰しになるよ。Ⅱの系列に学園は持ってないし、普通の学校に入れて咲良が平和ボケしちゃったら困るからね」
話は終わり、とふたりで外食をして帰った。寮に入るのは嫌だな、藤之にも菜都にもⅡのみんなにも簡単に会えなくなるから。菜都は一緒に行かないみたい。さすがに生徒にはなれないからって藤之に笑われた。
「咲良、おいで」
毎日一緒に寝るのがお約束。これも、寮に入ったら出来なくなる。
「やっぱり行かなきゃだめ?俺死んじゃうかもよ?」
「大丈夫、咲良を育てたのは俺だよ?きっと行けば楽しくなる、明日荷物の整理と髪を染めてあげる」
楽しみだね、と背中に腕を回され抱き締められながら眠りについた。
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