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普段から。
誰にでも優しく人当たりの柔らかい九条アドルフという人物がたまらなく嫌いだった。
全て‥嘘で塗り固められたような、あの笑顔が大嫌いだった。
眼鏡の奥の青い瞳は全てを見透かしているようで居心地が悪かった。
それと同時に、嘘で塗り固めた自分を映し出す鏡のようで‥関わりたく無かったんだ。
「初めまして」
「‥よろしく、お願いします」
初めて会った時、透けるような青い瞳に驚いた。
少しの迷いもない滑らかな言葉と、少しだけ感じる親近感。
じじ先生の紹介で初めて会った時は気にする暇も無かったけれど。
あれは‥そう。
その次に会った時だ。初めて九条先生の診察を受けた時、この人がハーフなのだと分かった。聞いた訳じゃなくて直感だけど。
「お久しぶりです、氷室さん」
「‥壱でいいです」
「では壱君‥今日から僕が担当になります。改めて、よろしくお願いします」
「‥こちらこそ」
シワを作らない程度に緩まる表情をジッと見つめた。
1ヶ月前、じじ先生との検診では九条先生をまともに見もしなかったから。こんな顔だったんだと‥失礼になるかとか、そんな事も考えられないくらい、集中して見ていたんだと思う。
まるで、自分とは違う世界からやってきたような‥そんな事を思う程。
彫刻のように滑らかな肌はあまり日に焼けておらず、厚めのレンズの奥には良く見たら似合わないクマがあって、それとやっぱり青い瞳も見えた。
ピシッとした白衣にワイシャツ‥それから、酷い寝癖。
「‥」
「壱君、相談なんですが。
暫く精密検査をしていませんよね?僕も現状を詳しく知りたいので近いうちに検査をしませんか?
悪い兆候がある訳では無いので心配する必要も無いとは思いますが‥」
「‥はい」
「‥?」
「‥」
「壱君?聞いていますか?」
「え、あっすみません!
検査ですよねっ」
「‥体調が悪いですか?」
凄く焦った。
グッと覗き込むように顔が近くなったから。
ただ‥寝癖を見てただけだったんだ。
だって絶対変だと思ったから。少し長い髪はボサボサしていて綺麗な顔にはあまりに不釣り合いで。
「あっ、いやっ違っ」
「‥?」
「っ」
スッと伸びて来た手が頬を撫でて。スルリと動いた親指が瞼を掠めた時に、体が反射的にビクリと動いてしまった。
「あのっ‥それよりっ」
「なんでしょう?」
「この間‥すみませんでした」
「この間?」
「泣いちゃて‥じじ先生の事も、迷惑じゃなかったですか?」
「ああ‥」
九条先生と初めて会った時、じじ先生の最後の診察の時。会えない寂しさから泣いてしまった事を、今日は謝まろうと思っていた。
ただ、迷惑だろうと約束は約束。九条先生はじじ先生に会わせてくれるって言ったから。
「ではこうしましょうか」
「‥?」
オレから離れた九条先生はキシッと音を立てて背もたれに寄り掛かり、自然に組まれた足はスラリと長かった。
「壱君は検査嫌いだと聞きました。すっぽかした事も、あるとかないとか?」
「ゔ‥それはっ」
「精密検査では病院に一泊してもらいます。逃げずに検査を無事終えたら大出先生の家に連れて行きますよ?」
「‥‥」
「どうしますか?」
ニコリと。
見せた笑顔は真っ黒で、なんだかマズいと思ったのは今でもハッキリ覚えてる。
「‥学校あるから‥泊まりなら休日でっ」
「物分かりが良い子は好きですよ」
満足そうに釣り上がった口角から、腹黒さと駆け引きを楽しむ精神が見え隠れして。
オレはこの時、自分の体の事よりもこの人と関わる事に対しての危機感しか無かったんだ。
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