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第1章ー01 4月1日
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4月1日。
新しい一年が始まる。
市役所では、この一日は重要な一日になるのだ。
重役級は朝から拘束され、各部署では新しく出そろったメンバーで、なんとなくよそよそしい雰囲気で業務が開始される。
しかし、利用する側としては、そんなことは知ったことではない。
市民が押し寄せる窓口は相変わらず人でごった返していた。
なにせ年度末、年度初めは住民の異動が多いからだ。
まだ始業時間より少し前なのに、窓口のところにはたくさんの人が待っている様子が見て取れた。
そんな中、1階西棟1号の奥のスペースに新しい部署が誕生した。
真新しいプレートを見上げながら、大堀は胸がどきどきするのを覚える。
『市制100周年記念事業推進室』
鎖でぶら下がっているそれは、ゆらゆらと揺れていた。
「とうとう始まるね」
ゆるくクセのある髪を茶色に染め、おしゃれなストライプのワイシャツに菖蒲色の鮮やかなネクタイが収まっている男は身長170センチ。
それが大堀暁(さとる)だ。
「よし」
自分たちが仕事をするスペースは、観光部の一角に設置されていた。
他部署との間に仕切りはなく、腰高の書類棚で仕切られているくらいだ。
配置されているのは、専用の複合コピー機、オフィス用の棚、電気ポットだ。
なんだか寂しい感じがした。
まだ何もない、伽藍堂な部署だったのだ。
そんな中、机が5つ並んでいた。
一番奥がきっとここの責任者の席。
自分はどこの席に座ればいいのかな?
そんなことを考えながら戸惑う。
「初日だし、早めに出勤しよう」なんて思って出勤してみたものの、誰もいない。
「どこに座ればいいのだろう」
そんな独り言を呟いていると、見知った顔が自分と同様に段ボールを抱えて入ってきた。
「大堀か」
「あ、安齋。おはよう」
「おはよう」
安齋裕仁(ひろひと)。
身長188センチの長身。
長めの髪を後ろに流し、銀縁の眼鏡が光っているのが印象的だ。
黒茶のネクタイが、年上に見せるのか、かっちりした佇まいであることには違いない。
神経質ですと言わんばかりの容姿だ。
この男と今日から机を並べるなんて、大堀は不安しかない。
「今日からよろしく」
「こちらこそ。……だが」
「そうなんだよねえ」
二人は顔を見合わせた。
「責任者が来ないことには、どこに座ったらよいものか分からないな」
「だね」
そこのところだけは意見が一致するらしい。
二人は、段ボールを抱えたまま、そこに立ちつくしていた。
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