アダルトコンテンツが含まれます。
18歳以上ですか?
- 文字サイズ:
- 行間:
- 背景色:
-
過
-
•
彼ーー藤田は中学三年の時、突然遙と同じクラスに転入してきた。
中学校生活も残すところあと一年、高校受験もあって忙しくなる年のことだった。
彼が誰かと親しくしているところを見たことがなかったのは、そんな時期に転入してきたからばかりではなかった。
とにかく彼が笑っているところを見たことがない。
故に彼について知っていることはごく少ない。
成績が優秀なこと、規律には厳しいこと、忘れ物をしたり課題を提出していないところなんて見たことがない。
いつも教室でしゃんと背筋を正して座っている。
ただ、ふと教室を見回すと見かけない事がある。
昼休みはいつも教室にはいないし、週に何度か、授業中にいないこともあった。
いつも具合の悪そうな顔色をしているし、体調を崩しやすいのかもしれない。
無事高校進学を果たして、新学期に期待を膨らませて登校した初日、偶然行がけの電車に乗るホームで彼を見かけた。
遥と同じグレーのスラックスに紺色のブレザー、深い赤色のネクタイを身に纏っていた。
気づけば遥はその後ろ姿に声を掛けていた。今思えば別段中学で同じクラスだっただけで、仲良くもないのに話しかけたのは不自然だったかもしれいないが、期待と不安で高揚していた遥はほとんど衝動的にかけた。
声を掛けられた藤田は振り返り、少し驚いた表情をしたがすぐに目を伏せてぐっと眼鏡を押し上げた。
その表情は、一年たった今でも鮮明に覚えている。
そこから学校の最寄駅に着くまで喋った。
一駅ぶんだったから時間で言えば五分もしない、ほんの僅かな時間だけ。こちらから振った話題に、必要最低限の彼らしい簡素な応答。しかし不思議と会話は続き、ぽつぽつとお互いの話をした。
まばらに人がいる車内の窓から差し込んだ春の光は、藤田を柔らかく照らしていた。
現在の設定
文字サイズ
行間
背景色
×
4 / 7