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どんなに来ないでほしいと願っても明日はやっぱり来るもので。
時間というのは本当に残酷なものだ、そう思いながら支度をする。
そしてその一時間後、学校に着いた俺はとりあえず職員室に入ってチャイムが鳴るのを待った。
・・・・・・・・
チャイムが鳴り、教室へ向かう。
篠村は今何をしているのだろうか。そもそも学校に来ているのだろうか。
考えることは篠村のことばかり。前にもこのようなことがあった気がする。生徒に振り回されるなど、教師として情けないばかりだ。
ずっと考え事をしていたせいか、つい一年一組の教室を通り過ぎようといていた。それになんとか気づき足を止める。
そしてガラッとドアを開け、教室を見渡す。篠村は昨日言っていた通り学校に来ており、俺はとりあえず安心した。
・・・・・・・・
「センセ」
そう呼ばれ、思わずビクッとした。何故そんな反応してしまうのかというとその声の主が篠村だからである。篠村の顔はいつものように笑顔で、だからこそ俺を先生と呼ぶその単語に、尚更違和感を感じてしまう。
「おい篠村、どうしたんだよお前。いきなり先生呼びって。前までは小林小林って言ってたくせによ」
一人の男子生徒がそう言うと篠村はにっと笑って、
「俺は今日から真面目君になったんだよ。ほら俺、優等生だから」
と言った。・・・そんな理由ではないだろうと俺は心の中でそう思いながら二人の会話を見守る。
「ぶはっ!優等生ってお前そんなつらかよ!つか一回良い成績取っただけじゃん。まぐれまぐれ」
「なんだとっ!」
いつも通りだ。いつも通り。
違うのは呼び名と言葉使い。
生徒が教師を「先生」と呼ぶのは当たり前。教師に対して敬語を使うのも当たり前。
・・・それが当たり前、なんだ。
俺が考え事をしていると篠村はそういえば、と何かを思い出したようにこちらに振り返った。
「センセ、今日放課後話したいことあるんですけど」
空けといてくれません?
篠村は敬語を使い、俺に頼む。俺はわかったと一言言うと篠村はすぐにその場を去った。
どうしてこうなってしまったのか。原因は前のことであることはわかってる。でも、どうしてもわからないとこがあるんだ。
あの時、俺はどうすれば良かった?
どうすれば、お前は喜んだ?
・・・もう良いや、どうでも。
俺は・・・お前の笑顔を見てるだけで、いつも通りでいてくれるだけで・・・それだけで良い。
先生と呼ばれようと。
敬語を使われようと。
もう、元通りにならないとしても。
お前がそれで笑ってくれるなら俺は・・・それで、良い。
・・・本当に?
本当に、そう思ってるのか?それで良いって。
納得しようとする気持ちと、納得できないと思うこの気持ち。違うようで、でも答えは同じなこの気持ち。
嫌なんだ、俺は。篠村とこんな風になるのは。そうだ、どうしてわからなかったのだろうか。
・・・もしかしたら俺は、認めたくなかったのかもしれない。
この気持ちを認めてしまったら、自分は弱い人間だとわかってしまうから。それだけは、どうしても嫌だった。
今まで俺は独りだった。しかし俺はなんとも思わなかった。それが、当たり前だったから。
でも、高校で色々あって、大学ではできる限り誰かと関わろうとして・・・。
そして今は教師をしている。
教師は必ず誰かと関わる。そんな仕事を何故俺は選んだのか。
もう既に駄目だったんだ。独りが。
寂しくて寂しくて・・・しょうがなかったんだ。
わかった途端、認めた途端、答えはどんどん出てきた。自分は強い人間じゃなかった。むしろ弱い人間だったのだ。
篠村にキスされて、拒絶できなかった自分も認めたくなかった。あの時、心臓がバクバクしていたことも。何もかも。
そうか。そうだったんだ。
謝ろう、前の発言を。
そして認めよう、この気持ちを。
でも許されなかったらどうしようか。
自分の弱さを認めてしまった以上、許されなくても良いなんて強気なことは言えない。もしかしたらもう立ち直れないかもしれない。最悪、もっと遠くへ離れてしまうかもしれない。
そう考えながら俺は苦笑いを浮かべた。
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