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あなたの幸せの為に
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夏咲と二人で外を歩けば、
細い道を選ぶ必要はなかった。
大通りを歩いていたとて誰にも邪魔されないし、襲われない。
自分ひとりでは限界を感じていた中で、
Ω性の夏咲に助けられることをありがたく思えるまでに、
俺の積み重ねてきたちっぽけなプライドはどこかに消え去っていた。
あっという間に辿り着いた総合病院。
夏咲に手を引かれ、通い慣れた廊下を歩く。
フードをいつもかぶっているのは、頬の傷を隠しているのかな。
「……夏咲。少し待ってろ、志貴と2人で話したい。」
「っ…。」
病室の前で立ち止まれば、
扉を挟んだ向こう側は静寂だった。
志貴に伝えたいことが、
頭の中でうまくまとまるかはわからないけれど。
決心はついていた。
これが俺なりの償い、けじめ、
そしてみんなが前に進む方法だ。
俺は罪を背負って、大切な人たちをこれ以上苦しめないよう守らなければならない。
生きていかなければならない。
こんな生き辛い世界で。
────なんて、
臆病な俺はまるで偽善者のような綺麗事をしたためた。
「…もし僕にしたことに、責任を感じて選択肢を狭めているのなら
その必要はありません。僕は幸せ者です。
あなたのお陰で親からの愛を貰い、あなたから、ぬくもりを貰いました。
これ以上は望みません。どうかあなたの…幸せのために…っ。」
Ωによるαへの逆襲が横行するようになり、
Ω性の人々は横柄になった。
人を見下す者も増えた。
それなのに夏咲は、昔と少しも変わらない謙虚な姿勢のまま、
背中を小さく丸めたままで。
αを恨んでいる、というより
単純に俺の気を惹きたいがためにあんな行為に走ってしまったのかもしれない。
世界を変えるほどの夏咲の行動は、
ただ単に、愛というものに恵まれて来なかった夏咲による初めての衝突だったのかもしれない。
たまたま志貴がαだった、
たまたま夏咲がΩだった。
ただ、それだけの事だ。
世間は必要以上に騒ぎ立て、今の世の中が完成してしまった。
メディアの力、情報発信の気軽さ、
ネットの普及が、この世界を作ってしまったといっても過言ではない。
常に愛を注がれてきた俺たちと違って、
愛の伝え方も、
愛の表現方法も、
夏咲は無知だったんだ。
幼い頃、夏咲の首を噛んだ俺と同様に。
きちんとそれなりの教育を受けていれば、
俺たちはきっとこんな大きな失敗を犯すことはなかった。
そんな事もわからずに、
あの時君を責めてごめん。
身体以上に夏咲を求めているこの気持ちの正体に
もう、嘘をつく事は出来なくて。
フードを外し、夏咲の震える唇に口づけた。
乾燥しているのに、涙で少し塗れていてしょっぱくて、
適度に柔い感触はどこまでも俺の好みだ。
少し前までの自分では考えられなかった。
こんなにも、君の強さと弱さに心惹かれる自分が居るなんて。
夏咲の耳元であることを囁けば、
夏咲は顔を真っ赤に染め上げて硬直する。
「っふ。だから待ってて、夏咲。」
久しぶりに、無理やり浮かべたわけではない笑みがこぼれた。
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