アダルトコンテンツが含まれます。
18歳以上ですか?
- 文字サイズ:
- 行間:
- 背景色:
-
11.帰り道
-
「祭り、楽しかったか?」
ぞろぞろと浴衣を着た人たちが歩く中を続くように、僕と遥も家路に向かって2人並んで歩きます。
「はい。来年も来ましょう、遥」
そう言うと遥は少しビクリとして体を反応させた気がしました。
「遥?」
「…あ、ああうん」
うん…?
「何ですか?遥」
「いや、あー…その、その頃には、お前も恋人とか出来てるかなと思ってさ」
遥は目線を明後日に向けながらあははと乾いた笑い声を漏らしました。
恋人?
「遥、それは一体、何の話ですか?」
「いや、だって、無い話じゃないし。お前言わないけど、学校で相当モテてるんだろうしな。その見た目じゃ」
そう言って何故かふ、と暗い顔をして瞳を伏せる遥。
「?モテてるとして、何故そういう話に繋がりますか?」
「…否定はしねえのかよ」
僕の横を歩く遥のスピードが早くなり、僕はそれを追いかけます。
「遥、どうしたんですか?」
「は?何が。別にどうもしてねえよ」
違う、遥は何か怒っています。
「言ってください、何を怒ってるのか」
「怒ってねえよ!…別にそんなんじゃない」
遥の表情が深く傷ついている様子を確認しました。僕はいつ遥にこのような顔をさせてしまったのでしょうか。
「は、分かりました。さっき不覚にも僕が、また遥に向かって可愛い、などと言ってしまったから怒って」
「違う!」
……違いましたか。
「てゆうかそれお前割といつも言ってきてるよな!?」
「そうでしたか?」
首を捻ると、遥は僕から怒った顔を背けて先をさっさと歩いていってしまいました。本当に僕は、遥をどんな理由で怒らせてしまったのか…。
「すみませ〜ん、お話いいですかぁ?」
「はい?」
(浴衣の女性2人、ですか。)
「彼女いる?歳いくつ?連絡先交換しよ〜」
「いえ、…僕は」
遥、どこに行ってしまったんですか。
「君の目、すごい綺麗な青色だよね〜まるで作り物みたいっ」
「…作り物」
「ああ、もちろんいい意味でだよ〜?君ハーフ?外国人なの?」
「いえ、僕はー」
その時、ふと目を見上げた先にこちらを見て立ち尽くしている遥の姿が見えました。
(…?遥の様子がおかしいです。僕を見て、酷くショックを受けた顔をしています。もしや、今僕が彼女たちに両隣から腕を取られているから何か良からぬ勘違いをしているのではー)
「はる…」
「…っ」
(!)
遥が僕の前から突然走って逃げ出しました。僕はそれを見て目を大きく開きます。
「…遥っ!」
彼女たちの腕を解き、僕は遥の後を追いかけた。
「遥っ、待ってくださいっ…!」
暗い人通りのない路地裏に入った辺りで遥の右腕を掴む。
「違います、今のは…」
「何で俺に弁解なんかしようとするんだよっ!?」
「…え?」
「それが普通じゃん!それが正常じゃんっ!雨依は、もうそういう年頃なんだからさあっ!」
(……遥?)
「…遥…泣いてるんで」
「うるさいなあもう!」
僕の掴む手を振りほどき、遥がこちらに向き直った。僕を睨みつけながら、大量の涙を零して、遥は唇をへの字に曲げて、小刻みに体を震わせていた。
「…遥」
「…自分が嫌だ、よ…」
(遥…?分からない、何故遥は泣いているのか。)
遥は自分の顔を腕でぐいっと拭った。
「俺は親なのに…雨依のことこれから旅立たせるのが義務なのに…」
「…」
「…なのにっ…1人になるのが怖い、なんて…俺…」
下を向く遥の顔からぽたぽたと、次々に涙が落ちていく。
遥が自分の腕で何度も拭っていますが、それは全く止めきれていません。この感情は何ですか?胸を締め付けるこの感情は…。遥を見ていると、僕はどうしようも無く心臓が、ここが、破裂しそうになるんです。教えてください、遥。これが、子が親に向けて想う感情なのですか?…ーー
「……雨、依……?」
遥が僕を子どもだと思いたいならそれでいい。
僕は遥の望むことを、全て叶えてあげたいから。けれどもし遥がそれを望んでいないのなら…
「…離せ、俺の体を軽々と…さも余裕そうに抱きしめんな」
遥の背に手を回して思う。ああ…なんて小さな体なのだろうかと。いつか消えて、いなくなってしまうんじゃないかとそう思うほどに…。
「…遥は何も分かってない」
「……雨依…」
「遥は僕のことを何一つ理解してくれない」
「…」
「…僕のことを理解出来ているなら、分かっているはずです。僕が、貴方の元を離れたりしないことなんて…」
そっと体を離すと、こちらを見上げて目に涙をためる遥が瞳を大きくして見つめていました。
「……遥」
僕はそんな顔をする遥の、白く柔い頬にごく自然に手で触れました。僕はそのままゆっくり、遥の真っ赤な唇に向かって自分の唇を寄せていきました。唇が触れる後数センチに差しかかった時、僕は感じる気配にハッとして動きを止めました。
(この動き、近い。僕をあの時のように探している銃器を持った連中が近くに何人か…います。)
「遥、少し我慢してください」
「えっ」
壁に遥の背をつけ、僕は遥の体を隠すように強く遥を抱きしめました。
「…もしかして追手か?」
僕の胸の中から顔を上げて勘づいたように遥が言う。
「ええ」
僕はそう返事をしながら周囲を観察します。しかしどうやら、彼らはここにはいないと判断し、撤収したようです。
僕はほっと胸を撫で下ろす。
「もう大丈夫ですよ、はる…」
そう言いながら遥の体を離そうとした時、妙に早い鼓動の感覚に気づきました。うん?僕はそれに疑問に持ちました。何故ならこれは僕のものではなかったからです。
「は、早く帰ろうぜ」
すると、壁と僕の胸の間からサッと抜け出した遥が、瞳をさ迷わせながらそう言いました。
「遥?」
「ばっっ、ど、動揺なんてしてないって!俺は何も、ど、どきどきなんか、し、してな」
(…ん?何を言ってるのですか?遥)
「?遥、それよりまだ敵が周辺にいるかもしれません。危ないので手を繋いでおきましょう。」
「…手っ!?」
すっと右手を遥に差し出すと、遥は過敏に反応して僕を見てきます。
「ヤダよ!そんな、…は、恥ずかしいだろう!」
「え?」
(恥ずかしい?)
「絶対っ繋がないから!」
遥はぷい、と僕から顔を背けます。…てっきり、僕はまた親がどーのとかそういう話を遥にされるものかと思っていましたが。まさか、そんな個人的な理由を持ち出してくるとは。
「…。そうですか」
「…な、なんだよ」
「いえ別に。」
「…」
「ああ、そうです。遥、僕はさっきの女性2人とは何もありませんよ。」
「どっ!どうでもいいよそんなこと…っ」
「遥が勘違いされてるままなのは僕が嫌なので。」
「…し、してないから、もう」
「そうですか?なら、良いんですけど。」
そうしてにこ、と遥に向かって微笑むと、遥はまたぷい、と僕から顔を背けました。
(…?まだ何か怒っているのでしょうか?)
「遥、何故こっちを向いてくれないのです?」
「…見たくないから。」
(…な…何なんですか、それは…遥。)
「僕はまた、何か遥にしたんですか?」
やはり、先ほど遥のことを強く抱き締めすぎましたか…?それとも、さっき遥にキスをしようとしたからー
「何でもないよ」
すると、遥がそう徐に僕の手を取って握りながら言いました。
「…遥」
目を瞬かせる僕を見て遥はにこり、と笑みます。
「帰ろう。雨依」
遥は結局、僕と手を繋いでくれました。辺りは街灯の1つもなく真っ暗で、その為僕はその時の遥の表情をきちんと全て読み止れてはいませんでした。
けれど、繋がれた遥の手から遥のあたたかい体温を感じます。
「…来年もこよう。」
「え?」
辺りは街灯のない暗い道。よって、ぼそりと呟いた遥の顔が実は随分と前から真っ赤だったことなんて、僕は気付く由もないのです。
現在の設定
文字サイズ
行間
背景色
×
12 / 44