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12.隠し事
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「はぁ…?温泉旅行に行きたいだあ?」
「はい。」
夏も終わりに近づいた、そんなとき。食卓に着く我が家の最近15歳になった、歳の割に無駄に図体のでかいキラキラとした子どもは、仕事終わりの親である俺に向かって真面目な顔をしてそう言った。
「ちょっとまて。雨依お前…夏祭りの時自分はポテトだけでいいとかって言ってなかったっけ…?」
「それが何ですか?」
「…。」
「僕は9月15~17にかけて、遥と温泉旅行に行きたいんです。」
9月15~17日…?何故にピンポイント?
「あのな雨依、分かってると思うけどうちは今旅行なんか行ってる金はないぞ。」
雨依は日頃からお金に関してはかなり遠慮してくれてると思っていたが、急になぜこんな突拍子もないことを…?
「温泉が駄目ならデ〇ズニーランドとシー2泊3日の旅行では」
「〜だからッ行先とか内容とかの問題ではねぇよっ!金がねえっつってんの!」
ドンッと食卓の机を叩く俺。…あ、ちょっとキレすぎてしまっただろうか。すると、
「なら…、北海道のあらゆる観光名所を巡る旅行を9月15~17日にかけて!或いは福岡で博多ラーメンを食べ歩く旅行を9月15~17日にかけて!」
…!?!?
「ど、どうしたんだ雨依お前急に…」
そしてお前、博多ラーメン好きなのか…?知らなかったぞ…その情報俺。
いや、ちょっとまてよ。
「お前…今やたらと9月15~17日にかけて、を連呼してたよな?」
「…」
「してたよな?」
「してません。」
ふーん…なるほど。メインは旅行云々ではなく、日付の方か…。俺は正面に座る食卓の席につく雨依の冷静にすました顔をじっと見つめる。
「雨依…」
「…」
「9月15~17日の間に一体何があるんだ?何を隠してる」
「何も…隠して」
「俺に嘘をつくのか?雨依」
目を逸らす雨依の顎をぐっと手に取り、雨依の青い瞳を見つめる。すると、ほんの少しだけ瞳をきょろ、と動揺させるように動かす雨依。
「は、遥」
「なんだ」
「…近い、んですが」
「仕方ないだろお前が本当のこと言わないんだから」
「僕は何も隠して…」
そのとき、家の電話の音が鳴り響いた。ったくなんだよ…こんな時に。
「はいはいはー…」
すると何故か電話機の前で立ちはだかる雨依に電話を取りに動いていた俺はピタリと動きを止める。うん…?
「…おい?何やってるんだそこで、雨依」
「…」
怪しい…。怪しすぎる。明らかに俺に電話を取らせたくない感が満載である。
「雨依お前…まさか学校で何かやらかしたか?」
そんなこと過去に1度だって無かったはずだが。
「別にしてません」
「はあ?じゃあ退けよ」
しかし、雨依が退く気配はない。はー…もう、しつこいなぁこいつは…。こうなったら、仕方ない…あれをしよう。
「んん、ごほん、」
「…遥?」
俺は後ろを向いていた体をくるりと雨依の方に向けて、自分にとって出せる最大限の笑顔を顔に浮かべながら言った。
「ほーら雨依」
「…?」
「おいで、今日は俺と一緒に寝ようか?」
「…!」
甘い声で囁きつつ優しく雨依に両手を広げれば、あとはこっちのものだ。
「はるー」
しめた。
プルルrガチャッ
「はいもしもし青条です、お電話お受けするのが遅くなって大変申し訳ありません〜はい、はい、雨依の担任の播磨先生ですか、お久しぶりです〜。いつも雨依がお世話になりまして〜、え?はい、いえいえっ、全然大丈夫ですよ〜はは」
「……遥は人の皮を被った悪魔ですね…」
ー
…はあ。さっき電話を受けた雨依の担任の播磨(ハリマ)先生からの話で雨依のこだわってた9月15日からある隠されたものがやっと分かった。
「雨依、9月15日から17日の間、修学旅行があるんだって?」
再び食卓の席に着きながら正面に座る雨依を見て俺は眉を寄せる。
「…はい」
「はぁぁ〜ったく〜〜。そうならそうと言えよ、何事かと思っただろ、何故修学旅行のことを隠すんだ」
「僕は行きません。」
「、はあ?何言ってんだ」
「2泊3日とは言え、遥の傍を離れることになります。」
…。
「だからなんだ?」
「僕がいない間に、遥が何者かに連れ去られるかもしれません」
…はい?
「それは僕は嫌です。だから」
「おいちょっとまて。意味わかんないから、俺は連れ去られないから。何でそうなんだよ」
頭を困惑させていると、真面目な顔つきをした雨依が俺を見て言う。
「遥は僕の最も身近にいる人。僕の慕っている人間です。僕を普段から付きまとい狙っている輩が遥を人質に取るかもしれない」
雨依のその話に俺は目を開く。雨依の言うことはよくわかった。しかし…
「そんなまさか…。輩と言っても相手はあれでも国の人間だろうしそんな非道なこと」
「国の人間だからやるんです。…僕をいつも殺そうと企んでいるのは国の軍隊、つまり国直々に僕を殺そうとしている、その意味が分かりますか」
「え…」
「一刻も早く、僕のことを消したいはずです、彼らは。恐らく、…どんな手を使ってでも。」
雨依の青い瞳が力強く俺を見つめ、俺はそれにほんの少し額に冷や汗をかく。
「…だ…だけど、修学旅行は授業の内の大事な一環だ。だからって休むのは」
「遥の命がかかってるんですよ?これは。こんなくだらない行事より、遥の方がずっと大切に決まっています。」
じっとこちらを見つめる青い瞳を見ながら、俺は雨依のそんな言葉にふっと表情を暗くした。
「…遥?」
「くだらない行事?」
「…え」
「雨依お前、自分に足らないものが何か分かるか」
「…足らないもの?」
「お前に足らないものは、他人との交流。言葉を交わす程度じゃない、自分の意見をぶつけ合える、信頼出来る友だちを作ること。成績だけが良ければいいなんてそんなの違うぞ雨依」
「…僕にはそんなもの必要ありません。」
「…」
「僕には、遥がいればただそれだけで」
「でも、俺は少なくとも年齢的にお前より先に死ぬんだぞ」
雨依は俺を見て口を開いたまま固まる。
「…そんなのずっと先の話です」
「いつ人が死ぬかなんて分からない」
「何で僕に今そんな話をするんですか、遥」
「お前が人を大切にしないからだ!」
ふと、そう声を上げた後、俺はそっと顔をうえに上げた。雨依は、俺の方は見ず視線の先を食卓の机の上に静かに落としていた。…雨依のことが大切だ。大切だからこそ雨依にとって厳しいことも言ってしまう。
自分がかつて、成すことのできなかったことを、俺は雨依にできて欲しいと思っている。何故なら、お前には、お前だけには、俺のようになって欲しくはないから…。
雨依を、信じているから。
「……分かりました。僕の負けですね。」
「雨依…」
「けれど、遥1人は流石に心配なので別の者をその間だけここに同居させます」
「ああわかった………て、は」
……はああっ?
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