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案の定、ホームルームが終わると同時に転校生の周りにわっと人が押し寄せた。わざわざ他クラスから来ている奴もいた。
「どっから来たの?」
「親の仕事何?」
「十八っておもしー名前。」
「──から引っ越してきて、親は──⋯」
転校生は一つ一つの質問に丁寧に返しているようだった。
決して聞き耳を立てているのではなく、すぐ後ろでのやり取りなので聞こえてくるのだ。
ただでさえこんな暑苦しい中、あんなに周りに人だかりができているんじゃ余計暑いだろうに。真後ろで繰り広げられているこの状況に、むしろこっちの方が鬱陶しさが募った。
席を立って教室を出る。俺のクラスはなんだって授業が始まるまで冷房を付けちゃいけないんだ。
不満は募るが、きっとこの現状は変わらない。前に抗議した生徒がいたが担任は聞いてはくれなかった。授業が始まるまで自分は涼しい職員室にいるくせに...。
今まで何度もついた悪態をまた心の中でつく。二個先に進んだ教室のドアを開けると、冷気がふわっと押し寄せてきて心地良かった。このクラスは理解のある担任で羨ましい。
「春樹(はるき)〜。」
「おっ、綾斗(あやと)。」
一限目の授業の準備をしている男に向けて呼びかけると、よく知った顔がこちらに向いて声が返ってくる。
そのまま空いている前の席──きっと俺の教室に転校生でも見に行っているんだろう──に逆向きで跨り、椅子の背もたれ部分に腕を置いて顎を乗せるようにして座る。
「今日も暑くて抜け出してきたのか。」
「んー...、それもあるけど、」
「1組の転校生イケメンらしいよ〜!?」
「えー!見に行くー!」
元気な声がキーンと飛んできて、楽しそうな女子二人組がバタバタと教室を出ていく。
「はぁ...。転校生の席が俺の後ろになって朝から騒がしいんだよ。」
「あぁ、転校生か。そういえば朝担任がそんなことを言ってたな。お前の後ろの席になったのか。」
「そうそう。」
春樹は「ドンマイ」と言って、大して心配もしてなさそうにテキパキと授業の準備を進めた。手に纏めて持った教科書をトントンと揃え机に置き、次いで筆箱から消しゴムとシャーペンを一つずつ取り出す。その一つ一つ丁寧な動きをぼーっと眺めているとふと手が止まり、消しゴムへと手を伸ばしグニグニと弄り始めた。
「どうだ。転校生とは仲良くなれそうなのか?」
思わず「父親か」とツッコミを入れると、春樹も「ふはっ」と笑い声を上げた。茶番を続けるように顎に手を当て上目遣いに「パパ」と言って、お互いくつくつと笑う。
満足したところでまた春樹が口を開いた。
「で、どうなんだよ。」
「えー?んー…。仲良くなる必要あるかぁ?」
「なんだそれ。」
フッと笑って消しゴムを弄るのをやめると、止まっていた準備を再開するように教科書をペラペラとめくりお目当てのページを開く。そのページは所々マーカーが引いてあり、綺麗ながらもしっかりと使い込まれている様子だった。
「俺はお前みたいにフレンドリーじゃないんだよ。」
「確かに。お前にも俺から話しかけたしなぁ。」
そう言って、春樹は手持ち無沙汰に俺の髪を左手で弄り始めた。時たまチクリとはしたが、大して気にせず俺は俺で春樹のシャーペンを使って机に落書きを始める。
「でも最初の頃は教科書とか見せてとか言われるんじゃないか?」
「それは隣の席のやつとやるだろ。俺前だし。」
「それもそうか。まぁ教科書に限らず、席が近いと色々と頼りにされるかもな。」
「まぁ向こうから求められたらそりゃ全然応えるけどさ。」
「求められるって...」
春樹はクスクスと笑って髪の毛を弄っていた手を退けると、「ほら、もう授業始まるから教室戻れ。」と言った。
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