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『裏切者!!!!!!』
いつも朗らかに笑っていた彼の顔が、見たこともないくらいに、歪んで。
『ひろのことだけは、信じてたのに』
初めてその口が、恨み言を吐いた。
―――その瞳の冷たさに己の過ちを悟ろうと。
もう全ては手遅れだった。
「……ッ、!!……はぁ、ハッ、」
目が覚めた瞬間に俺を出迎えたのは、ままならない呼吸と、焼け付きそうなほどの熱だった。
息をつく間も無く、灼熱は身も心も焼き尽くしていく。
あつくて、くるしくて、かなしい。
助けを求めて口がその名前を紡いだのは、完全に無意識だった。
「くろさ、わ」
部屋に響いたその声は、あまりに頼りなく。
胸焼けがしそうなほどに、甘ったるい。
それに眩暈がするほどの自己嫌悪を覚えて、皮肉にも僅かに理性を取り戻す。
――――運命の番。
かつては、完全無欠なαを唯一崩しうる呪いのように忌み嫌われていたそれ。
それが今では、色んな物語、絵本、ドラマ、映画で取りざたされ。
まるで理想のように語り継がれている。
そんな御伽話のようで、けれどほんの数%の確率で確かに存在するそれに、俺たちは該当するらしい。
さわりたい、さわられたい。
恋しい、離れたくない。
会いたい、話したい。
自分の理性の制御が効かない醜い欲望が、隙あらば脳内を満たす。
その感覚が空恐ろしくて、その度ピルケースに詰め込んだ錠剤を片っ端から噛み砕く。
そうしてΩの自分を殺すように薬を服用するようになって、もうどれ程経っただろうか。
普通の量では、もう効かず。
副作用の倦怠感は、もう体質のように俺について回る。
「…いっそ、壊れてしまえばいいのに」
それが己であっても、Ωという醜い性であっても、どちらでも構わないから。
そうして壊れて仕舞えば、きっと自由になれる。
ーーー自分も、黒澤も。
ぱたりとベッドに落とした腕がひどく重くて。
その重さに耐えきれず、もう一度、瞼を下ろした。
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