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異変10
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「私はな、敵の戦力がもう少し詳しく知りたいのだ。黒の王が色々と情報を入手してくれはしたが、どうにも未だに全容が見えん。だからここは、敢えて敵の手に乗る。敢えて可能な限りの戦力を国内に戻すのだ。もし帝国に最良の手段を取れるだけの戦力がなかったならば、私のこの判断は非常に厄介だろう。他国を捨ててでも自国の守りに徹するとなれば、今回のような中途半端な囮は機能しないからな。当然、多少の焦りも見られるというもの。逆に敵に焦る様子が一切ないのであれば、それはすなわち、この襲撃自体に重要性の高い目的はないことを示している。さて、では仮に大きな目的のない襲撃なのだとしたら、一体何故彼らは仕掛けてきたのだと思う?」
試すように言った王に、ミハルトは僅かな沈黙の後に口を開いた。
「前回の襲撃から大きな間を空けないため、でしょうか。連続的な交戦というのは、それだけで互いを消耗させるものですが、確実に相手を疲労させることができます。戦力を多く持っているのならば、有効な手段であると言えるでしょう。……それに加え考えられることがあるとすれば、……何かしらの試験を行っている可能性、でしょうか」
ミハルトの回答に、王は満足そうに頷いた。
「やはりお前は優秀な騎士だ。いや、私もそう考えていたところでな。もし連中がグランデル王国の戦略を解析しようとしているのであれば、ここで正しい判断をするのは危険だ。やはり、わざと愚策を選択する方が無難だろう。そうすることで、少なくとも相手の戦力の目安が判る上、この程度の襲撃で王都の守りを固め出すような気弱な国であるという印象操作もできる。勿論、帝国の上層部にはこのようなはったりは効かんだろうが、現場の兵たちにはある程度有効だ。急激に強い力を手に入れたことも相まって、多少の慢心は招いてくれるだろう」
王の言葉に、ミハルトは素直に感嘆した。
確かに、ここで西に派遣している戦力を戻さないままでいれば、敵の作戦を読めているということと、その程度の戦力ならば欠けたところで大した問題はないという事実が露呈してしまう可能性がある。しかし、王が判断したように戦力を呼び戻せば、こちら側から相手に渡る情報は限りなく少なくなるだろう。もし敵がそこまで考えておらず、回せる戦力の全てを国境につぎ込んだだけのことだったとしても、赤の国で問題が生じることはない。
つまり王は、どう転んでも最も被害の少ない選択をしたのだ。
「……さすがはロステアール王陛下。出過ぎたことを申し上げてしまったこと、深く謝罪致します」
深々と頭を下げたミハルトに、王は気にするなと笑った。
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