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窮地2
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「本当に腕折っちゃおうかしら。というか、デイガーの奴だって脚斬り落とそうとしたんだし、いっそ両脚へし折って連れて行けば良いんじゃない? そうしたら逃げられることもないし」
「アンネローゼ様!」
「うるっさいわねー! 向こうの方が上官だから命令に従えって言うんでしょ! 判ってるわよ!」
苛立たしげに吐き捨てたアンネローゼが、力任せに少年の腕を引っ張る。その勢いに対応しきれずバランスを崩した少年は、ろくな受け身もとれないままに地面に転がった。そんな彼を、アンネローゼが嫌そうな顔をして見る。
「エインストラ様って伝説の生き物だっていうのにとっても鈍臭いのね」
嫌悪を隠そうともしない声が降ってきたが、少年は起き上がろうとはしなかった。無様でも何でも良いから、僅かでも長くこの場所に留まろうとしているのだ。
「あーもう。私こういうの見てると、ほんっとにイライラするの! かといって、ぶって怪我させると怒られそうだし……。……あ、良いこと思いついちゃった!」
苛ついた態度を一転させて楽しそうな声を出したアンネローゼが、少年を見下ろして、にっこりと微笑む。
「トラウマ抉っちゃえ」
言葉と同時に、アンネローゼの指先が少年を指し示した。すると、彼女の身体から白い靄のようなものが生まれ、避ける間もなく少年に覆いかぶさった。
突然襲ってきたその靄に少年の脳裏をよぎったのは、喉を掻き毟って絶命したアンネローゼの部下の姿だった。まさか今ここで自分を殺すとは思わなかったが、それでも先程の光景を思い出せば恐怖が勝る。
少年は反射的に逃げを打とうとする本能に抗うことなく、ばっと上半身を起こした。そのまま逃げ出そうとした彼はしかし、顔を上げた先にあった光景に、目を見開いて息を飲む。
「…………お、かあ、さん……?」
薄く開いた少年の唇から、畏怖の滲む言葉が零れた。
少年の視線の先にいつの間にか佇んでいたのは、この世の憎しみの全てを体現したかのように歪んだ顔をした、母親だったのだ。
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