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窮地17
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「おい、何が起こっ、」
『グレイ』がそう言い掛けたところで、アンネローゼがいた場所の空間が突然ぐにゃりと歪んだ。そして、一点を中心に渦を描くようにして捻じ曲がっていく空間の向こう側で、不明瞭だが巨大な何かの影が揺れる。
歪む空間を睨むように見たヨアンは、芳しくない状況に表情を険しくしている『グレイ』へと視線を投げた。
「判っていたことだけど相手が悪すぎる。こうやって先手を打たれた以上、今のまま対処するのはあんまり賢くない。俺は"存在を知られてる"から」
やはりあまり抑揚のない声でそう言ったヨアンに、『グレイ』は片眉を上げる。
「アァ? 判る言語で喋れ」
どうやらヨアンという男は会話があまり得意ではないらしい。もしくは、端から伝える気がないのだろう。どっちにしても、『グレイ』が困ることに変わりはなかった。とにかく、もっと意図を明確に伝えろ、という意味の言葉を吐くことで意思の疎通を図ろうとした『グレイ』だったが、そんな彼を無視してヨアンは火霊と地霊の名を呼んだ。
「いつもの強化お願い。調整とかは任せるから」
「おい、無視してんじゃねェよ」
やや苛立ったようにそう言った『グレイ』をちらりと見たヨアンが、ぐっと膝を曲げて腰を落とす。
「じゃあ、俺は消えるから。後はなんとかして」
そう言うや否や、『グレイ』がその言葉の真意を問い質す前に、ヨアンの姿が一瞬で消えた。煙のように掻き消えただとか、そういう類のものではない。その瞬間、『グレイ』は瞬きひとつせずにヨアンを見ていたのに、その彼にすら何が起こったのか判らないほど瞬時に消えてしまったのだ。
「なッ、何考えてんだあのクソ野郎!」
この状況で『グレイ』を置いて逃げるなど、赤の王直々の依頼を受けた護衛がして良い行動ではないだろう。それだけに、この展開はさすがの『グレイ』も予想外だった。
そんな彼のすぐ前で、一際大きく揺らいだ空間から、周囲の木々をなぎ倒しながら、巨大な何かが姿を現した。
「……なんだ、これ……」
『グレイ』が呟いて見上げた先にいたのは、見たこともない大きさの二枚貝だった。殻をピタリと閉じている今の状態であっても、その高さは『グレイ』の身長の三倍はあるだろう。そしてこの貝は、青の国のそれに見られる芸術品のような造形ではなく、もっとずっと単純な流線形をしていた。こんな貝など、『グレイ』は見たことも聞いたこともない。
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