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窮地18
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(馬鹿みたいにデケェ貝だ。……だけどこいつ、動けるのか?)
見た目だけで判断するのならば、地上を機敏に動けるようには思えない。だが、この貝も恐らくは敵である。ならば、仮に『グレイ』が逃げようとしたところで、やすやすと見逃してくれるとは思えなかった。
貝を睨んだまま、じりじりと後退し始めた『グレイ』に、固く閉じていた貝の殻が僅かに開かれる。そしてそこから、まるで深い溜息を吐くような音と共に、黒く淀んだ靄が吐き出された。それはアンネローゼが操ったものに似てはいたが、しかしずっと禍々しい気配を色濃く纏っている。
本能的に黒い靄に触れるのを拒否した『グレイ』の身体が更に逃げを打とうとしたとき、不意に彼の頭に『アレクサンドラ』の声が響いた。そして告げられた言葉に、『グレイ』が僅かに目を見開く。
『グレイ』が主導権を握っていられる時間に限界が来たというのだ。『アレクサンドラ』曰く、彼女の処理能力ではこれ以上の記憶の空白を埋めることはできないらしい。
元々、他の人格が主導権を奪い取っている間の記憶は『鏡哉』には残らないため、記憶を改ざんすることでその空白期間を埋める必要があるのだが、『アレクサンドラ』が埋めることのできる期間は限られている。それを考慮しても想定以上に限界が早いのは、恐らくあの赤の王との一件のせいだろう。
「つくづく余計なことしかしねェなあのクソ野郎」
僅かな躊躇を見せたあとに盛大に悪態を吐いた『グレイ』は、意を決して目を閉じた。そのまま、身体と意識の主導権を徐々に『鏡哉』へと戻していく。
今の状況で『鏡哉』に代わるのは非常にリスクの高い選択だったが、それでも『鏡哉』の精神が崩壊するよりはマシだ。少なくとも、危機的状況に置かれているということは『アレクサンドラ』がうまく刷り込んでいるだろう。であれば、脆弱な『鏡哉』でも多少の対応はできるはずだ。
万が一死にそうになったならなったで、そのときに改めて人格を切り替えれば良い。そうなれば十中八九『鏡哉』は壊れるだろうが、ちようごと死ぬよりはずっと良い。
冷淡とも言える冷静さでそう判断した『グレイ』の意識が奥深くへと落ちていくのに代わって、『鏡哉』の意識が浮上する。
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