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「機嫌悪ぃなぁ。何かあったの」
吹き抜けの下の中庭に、西日が差す昼過ぎ。
人のまばらなエントランスを歩きながら、真木が言った。
俺よりも少し高い位置にあるその顔を見上げる。
「あれだけしつこかったら誰でもイライラすんだろ」
「あはは、そりゃそうだなぁ」
「くっそ、腹立つ」
「皆、お前の事可愛いんだって。」
その言葉に足が止まった。
「……は?」
「お前が可愛いから、あいつら悪ノリしてんだよ」
その顔はニヤニヤと笑っていて、からかっているのが明らかだった。
俺が睨んでいるのを何の気にもせず、ポケットの中をゴソゴソと探って取り出したタバコを開ける。
「最近吸える場所少なくてくっそだりぃ」
「ここも禁煙だけど」
「うるせぇな、ちゃんと喫煙所行って吸うよ」
そう言ってフィルムを剥がしたタバコをまたポケットにしまう。
「シマ、次の講義取んの?」
「……帰る、めんどくさい」
「あっそ。」
気ぃつけて帰れよ、とヒラヒラと手を振る姿には誠意の欠片も感じられない。
入学したてで知り合ってすぐに、真木は俺をシマと呼ぶようになった。
素行はすこぶる悪いけど、多分俺とは違って頭はそれなりに良いはずだ。
それから1年弱
あいつの側は相変わらず、青臭い香水の匂いがして落ちつかない。
数日後の夕方、俺は大学構内の外れの、あまり生徒達が近寄らない様な場所にいた。
照明が少なく、薄暗い通路
その奥にあるドアにもたれて、スマホをいじっていた。
余った備品や、普段は使われない机や椅子やらが押し込められた準備室という名の物置。
人気の少なくなった構内は、遠くでたまに微かに話し声がするくらいで、しん、と静まりかえっていた。
とは言ってもどんな音も、その時の俺の耳には届いていなかった。
イヤホンと繋がった両耳には、スマホから流れる音しか聴こえない
いや、聴こえてこないようにしていた。
背中越しのドアの向こうの音など、少しも聴きたくなかったからだ。
なんで俺がこんな事しなきゃいけないんだ
あの野郎、
内心、毒づいた。
数十分前、学食の辺りにいたら真木に呼び止められた。
「シマぁ、今暇?」
「……暇だけど嫌だ」
「なんも言ってねーだろ、まだ」
大体、真木からの提案なんてろくなものじゃない。
「ちょっとだけ〝見張り〟してくんない?」
酒奢るから、と付け足されて話を聞いてしまったのを後悔した。
思わずイヤホンの音量を上げて、耳を両手で覆った。
このドアの向こうでは、真木が、
この前の合コンで新しく出来たらしい、他学部のセフレと絶賛お楽しみ中だ。
酒を奢る代わりに、鍵の掛からないこの物置の前で見張りをして欲しいと、半ば強引にミッションを押し付けられた。
くっそ、めんどくさいー、
イライラする。
もう数十分もこんな場所で待たされているのが、ものすごくアホらしくなってきた。
もう、放棄して帰ってやろうか
いっそ人でも呼んできてやろうか?
そんな事を考え始めた時、
「……、あれ、」
場所的に電波が悪いのか、観ていた動画が固まってしまった。
「……っあ、……ん……、」
イヤホンからの音が途切れた瞬間、ドアの中から漏れた音が聴こえた
一瞬、息が詰まる
「……っあ、……は……、…き、」
漏れてくる、荒い息遣いと声
ガタガタと何かが揺れる音に、何かを打ち付ける乾いた音
俺は、自分の体温が跳ね上がるのを感じた。
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