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次の日の朝、いつもの駅、いつもの時間のホームに浅科さんの姿は無かった。
混み合う構内で、通り過ぎる人の間をすり抜けていつものベンチまで来てみても、そこにあの人の姿は無かった。
違う路線に乗ったのか、
違う便に乗ったのか。
俺は自分を納得させる様にそう口の中で呟いた。
いつものベンチに一人で座ると、やけに固く冷たく感じた。
大学に着いてからは、出来るだけ駒場や芳賀と一緒に行動した。
講義の待ち時間も、昼時の時間も、一人になる時間を避けた
真木と二人きりになる事を避けるために。
それでも何かと話しかけてくるあいつを、なんとかやり過ごした。
帰り際、駒場達に夕飯に誘われたけれど、それもなんとなく断った。
あいつらの食事は、イコール、飲みだ。
アルコールが入ると自制が緩くなる
自分の事だから痛いほど分かってる。
もう、嫌だった。
楽な方に流されるのは、その時は良くても
必ずツケが回って来る
今更、変われなくても、
クズに変わりなくても、これ以上駄目にはなりたくない
そう思う様になっていた。
その次の日の朝も、駅にあの人の姿は無かった。
俺は、いつもと変わらない混み合う構内を一人、ぼーっと眺めていた。
じめじめと、まとわりつく空気、濡れたコンクリート
梅雨時の長雨で、湿気の篭った匂いがする。
人が忙しなく通り過ぎる構内
券売機の前、階段の下、自販機の横、改札の前、どこを見回しても、浅科さんの姿は無かった。
もちろんホームのベンチにも見知らぬ、電車を待つ人の姿しか無い。
そうしてあちこち見回していて、ふと、気付いてしまった。
俺は、あの人が来るのを待っている
ここで会って、挨拶を交わして、電車が来るまでの時間、他愛ない話をして一緒に過ごす事を、望んでいる
あの人の顔を見たいと思っている
会いたいと思っている。
その事に気付いてしまった。
同時に、
あの人と自分には、この駅で偶然居合わせる以外に、何の接点が無い事にも、気付いてしまった。
何も知らない
あの名刺に書かれた文言以外は、何も知らない。
どこで生まれて、どこに住んでいるのかも知らない。
結婚しているのかもしれないし、そうでなくても誰かと住んでいるのかもしれない
何も、知らなかった。
ごく当たり前の事に気付いて、ぼーっとしたまま、到着した満員の電車に乗り込んだ。
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