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「その辺に座ってて」
そう言うと、浅科さんは隣の部屋に入って行って、白いシャツを片手に戻って来た。
「それ、今洗えば落ちるかもしれないから、脱いで、とりあえずこれ着て。」
そう言われて、俺にはだいぶサイズの大きいTシャツを手渡された。
脱いでみて初めて気付いたけれど、肩や脇腹に打撲の跡がついていて、
薄く赤い色から、赤黒い色へ変わりかけていた。
「……それ、ケンカか?」
救急箱を手にした浅科さんが、俺の体を見るなりまた、同じ事を言った。
「……ケンカじゃない。」
「一方的に殴られたのか?」
「…ヤらせろって言われたから、嫌だって言ったらぶん殴られて、机に突っ込んだ。それだけ。」
俺は少し迷ってから、だいぶ噛み砕いて説明した。
「……それは、…ずいぶん強い女だな。」
浅科さんは、そのざっくりした説明を聞いて、なんともいえない怪訝そうな顔をした。
「違う。女じゃなくて」
俺はまた、
なんでこんな、探りを入れる様な真似をしてるんだろう
「殴ってきたのは男。俺、バイだから。」
わざと、そう言ってみた。
どんな反応をするのか見てみたいから。
浅科さんはさっきの話と、今の言葉を必死に反芻して考えている様な表情をしていた。
「……そう、か。」
「気持ち悪い?そういうの。」
なんで、こんな所に来てこんな事してんだろう
何やってんだろ、俺。
「……いや、気持ち悪いとかは…。いいんじゃないのか、別に」
明らかに気を使ってそう言っているのが分かった。
分かりやすく拒絶反応を示してくれたら一番楽なのに
そうやって含みを持たせられたら、また勘違いしそうになる。
「じゃあ、」
「え?」
どうせ痛い思いをするなら、早いうちの方が軽く済む。
「好きかもしれないって言ったら、どうする?」
「……え?」
浅科さんは、その一言を発したっきり、消毒薬のボトルを手にしたまま、固まっていた。
「無理なら無理でいいから。」
「……」
焦点の合わない様な目が、テーブルの上や、その手元を行ったり来たりしている。
もう、
やめよう
アホらしい。
ついさっきあれだけ痛い思いをしたそばから何やってんだ、俺は。
俺は、浅科さんに手渡されたTシャツをそのままテーブルに置いて、
血とホコリだらけのTシャツに、もう一度袖を通した。
沈黙が重い。
壁掛け時計の音だけが響いてる
何も、言ってくれない。
いや、
いいんだ、これで。謝られたりしたらそれこそ惨めだ。
カバンを手にして立ち上がるとソファが軋んで音をたてた。
その音にすら有り難いと思った。
「急に変な事言ってすいませんでした。」
「……、」
「もう二度とこんな事はしないんで、気にしないで下さい。」
顔を見るのが怖くて、目を逸らしたままそう言った。
結末を受け止められないなら端から何もしなきゃいいのに
なんで何度も何度も繰り返すんだろう。
ただ馬鹿なだけか。
俺は、何も言わない浅科さんの横を通り過ぎて、ドアノブに手を伸ばした。
その瞬間、
左手を掴まれた。
時間が止まった様に感じた。
「……無理じゃない」
確かに、そう聞こえた。
「…ボランティア精神とか、施しならいらない。」
「……それも違う」
手を離さずに、浅科さんはそう言った。
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