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ウィルは帽子のツバを少し持ち上げ、この芸術を詰め込んだ都を眺めた。
今日もパリは賑わっている。色とりどりのドレスを召した貴婦人たちが行き交うオペラ座前。これから観劇なのだろうか。よっぽど楽しみなのか足取りが軽く見える。
近年鉄道が引かれ、たくさんの人がパリに訪れるようになった。いくらか明るくなったパリである。
ひと昔のパリは、それはもう今と比べ物にならないくらい、生きづらい街だったそう。文化を楽しむ余裕がなかったらしい、祖父から聞いた話だ。
祖父は偉大な庭師だ。植物のことはなんでも知っている。特にバラは格別で、祖父の右にでるものはいない。時の皇帝に献上したこともあった。
(美しい街パリ。ああ、毎日がこんなに幸せでいいのだろうか?)
ウィルはそう思い、街ゆく人々をしみじみと見つめた。
パリ中心部より少し西にある貴族が保有するバラ園で働くウィルは、仕事が休みの週末、ここで花売りをしている。
平日はバラ園に住み込みで働き、実家の祖父に仕送りを送っている。
五年前から体調を崩した祖父の治療費を稼ぐため、休日だからといって休んでなんかいられない。たった一人の家族なのだから。
「お嬢さん、おひとつ下さらない?」
「ありがとうございます、マダム。あなたに沢山の幸せが訪れますように。」
夫人からチップをいただき、バラを一つ差し上げた。
(あのご夫人がお召しになられていたドレス、とっても素敵だった…)
全くパリの貴婦人は歩いているだけで芸術である。
ウィルの副業である花売りは、少女の格好をして行う。みすぼらしい見習い庭師の格好よりも、こちらの方が声をかけてもらいやすい。
幸いなのか、少女のような容姿をしているため、バレたことは一度もなかった。
16歳とは思えない顔立ちと様子。声変わりも大きな変化はなく、身長もやや高い少女のようである。
ウィルは自分の容姿を好んでいた。一度はかっこいい紳士に憧れを抱いたことはあったものの、女性の方が芸術的で美しいことに気づいたのだ。
華やかなドレスや、輝く装飾。どれも見目麗しい。
オペラ座前で商売しているのも、人通りが多いというのと、中心部の文化を前進で浴びることができるからであった。
平民である自分では到底不可能だと承知しながらも、「いつかは自分も芸術を身にまといたい」と、どこか夢見ていた。
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