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(今日のバレエも最高だった!)
エドガーは興奮が冷める前に、マダム・マリソンに依頼された絵を渡しオペラ座を出た。オペラ座は好きだが、この場所には長居しないのが常だった。というのも、公演が終了したオペラ座は社交場へと成り下がる。それに、踊り子の中にはパトロンになってくれと迫ってくる子がいるからだ。
もちろんお断りである。一個人を援助し他を無下にすることはできないし、何より、美しいと思っていたものが途端に醜いものに変わってしまう気がしたのだ。
オペラ座の外は茜色に輝く夕暮れ時であった。バレエを観劇した後はふわふわと心が浮つくが、今日は特に興奮が冷めない。いつもは馬車をつかまえてすぐに帰るが、今日は少し歩きたい気分である。
いつものように早く帰宅してしまうと、今日得たものをすぐ絵にしてしまいそうで、それは面白くないということに気づいたのだ。
今すぐにでも踊り出しそうな勢いの自分を落ち着かせるように、ゆっくりと辺りを見渡しながら歩く。
大通りはこれから観劇だと思われる貴族の馬車が大勢停まっている。行き交う紳士淑女も、自分のように浮き足立っているのだろう。オペラ座は今日も大盛況だ。
(夜は面倒な社交界になるから嫌いだな)
自分には向かない世界だ、と思い歩きながら賑やかな人たちを横目にした。そんな時だった。濃い豪華な御一行とは違う、別の色をしている一人の少女を見つけた。
(こんな時間に大通りでぼーっとしているなんて。貴族を狙った娼婦か?)
遠目でも分かる、この空間には似合わない格好をしている。顔は大きな帽子の影でよく見えない。
エドガーは、人付き合いが全面的に面倒になってしまった頃から、人と寝ることもしなくなった。実家にいた時は一伯爵家の息子、相手が決まるまで下手な真似はできないのもあって、格式高い娼婦を相手にしていた。
そもそも、学生のときから性には淡白であったので、同年代の人たちより経験も少ない。邸宅には最低限の人間しか雇っていないのもあり、娼婦でさえ久しぶりに見た。
今日の自分は狂っているのかもしれない。なんだか妙に浮ついて、この興奮を誰かにぶつけたくなった。久々に体が熱くなっている。
エドガーは停車している馬車の間をすり抜け、娼婦らしき少女に近寄った。
「マドモワゼル、もうお店はお終いなのか?」
間一髪だった。彼女は椅子を片付け、カゴを持ってこの場を立ち去ろうとしていた。
「……!い、いえ!まだ大丈夫です。買ってくださるのですか?」
背格好からして15歳くらいだろうか。声はバレエダンサーたちと比べると、少女にしてはやや低めである。
遠くからでは見えなかったが、よく見てみると美しい顔立ちをしている。色素が薄いのか、金色の髪の毛が夕日に照らされ、透明に見えた。瞳は自ら輝きを放つ宝石のようである。
まじまじと見つめるエドガーに、少女はバラを一本差し出した。
その指に摘まれた一本のバラは、今まで見てきた花の中で一番生き生きとしていた。
「…美しい。…残りの分も全ていただこう。」
心からの言葉だった。
少女はさぞ嬉しいのか、溢れんばかりの笑顔で全てのバラを売ってくれた。
バラを受け取ったエドガーは、持っていたお金のほぼ全てを少女の手に渡し、そのまま立ち去った。
そして少し歩いたところで、馬車をつかまえた。そのときやっと、さっきまで感じていた興奮が冷めていることに気づいた。
馬車の中で強く抱きしめていたからだろう。家に着いた頃には数本花びらが取れてしまっていた。
消えた高ぶりをバラの花束で埋めるかのように、強く抱いていた。
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