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あの日から、エドガーはずっとバラ売りの少女のことを考えていた。
少女から買ったバラはすぐに花瓶に挿し、アトリエに置いた。持ち帰った当初より水々しいと感じるのは気のせいだろうか。
少女が娼婦ではないのは、考えればすぐに分かることだった。
清らかな顔をしていた。あれは汚れをしらない顔だ。とても売春行為を行なっているとは思えない。それに、指先が少し汚れていた。土いじりをしているのだろう。
少女のことを思い出すと、居ても立っても居られなくなり、キャンバスに向き合うが一向に筆が進まない。あんなに興奮したバレエでさえ、描きたいと思えなくなっていた。そんなことよりも、少女のことが気になってしまう。
最近ではこのバラが少女に見える時だってあるのだ。
自分は変わってしまったのかもしれない、少女にもう一度会えば何か分かるかもしれないと思い、あれから一週間、毎日オペラ座に出かけている。だが、一向に会えない日々が続いていた。
(もう一度会いたい)
少女を思い出すと、心臓が大きく跳ね上がり鼓動がうるさい。こんな自分は、自分ではない気がしてむしゃくしゃする。
あの日は高ぶりをぶつけるつもりだった。けれど、できなかった。圧倒的な体格差で、しようと思えばどうにでもできたはずだが、大輪の花のような笑顔で正気を取り戻したからだった。
というのは建前で、本当は柄にもなく、照れてしまったのだ。いやその前から、一目見た時から照れていたのかもしれない。
花束も、うっかり少女をまじまじと見つめてしまい、困惑しているかもしれない、と思い、咄嗟に全て買い取ると言ってしまった。恥じらいをごまかすかのように。
そして、足早にその場を立ち去ってしまった。少女に己の高ぶりを見られることが恥ずかしかったし、あの場にいたら自分が自分ではなくなってしまう気がしたのだ。
それは恐怖と好奇心だった。変わってしまう恐怖と、知らない自分への好奇心。もう生まれることはないだろうと思っていた感情が湧き上がるのだ。
エドガーは明日もオペラ座に出かける。少女に会うために。
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