アダルトコンテンツが含まれます。
18歳以上ですか?
- 文字サイズ:
- 行間:
- 背景色:
-
5
-
美しき貴公子に出会った日から、二週間が経とうとしていた。
毎週日曜日は休日だが、雇い主である御主人様が体調を崩されることが多くなり、それどころではなかったのだ。
御主人様は本当にお優しい方だ。
祖父を庭師として雇ってくれて、まだ見習いであるウィルをバラ園で働かせてくれている。
御主人様は今年で歳年60になる。二人いるご子息は一緒に暮らしていないが、年の離れた奥様とは仲睦まじく、温厚な人でお屋敷の使用人全員を家族だと思ってくれている。
ウィルはそんな御主人様を使用人としての立場からではなく、人として心から敬愛していた。
だから、心配で出かけられなかったのだ。
少し前までは屋敷から離れたバラ園を見に来てくださっていたが、最近はめっきりなくなってしまった。使用人内の話だと、先日のもう長くはないと診断されてしまったらしく、毎日気が気じゃない日々を送っている。
不安で眠れない日も多々あるが、そんな時はバラを買ってくれた貴公子のことを考えると気持ちが明るくなった。
(もう一度、会えるかな)
そう考えると明日も頑張ろうと思えるのだ。
オペラ座前を行き交う人々は皆、見目麗しいがそこまでであった。買ってくれる人たちの、顔も声も、なにもかも明確に記憶はできない。でも、貴公子は昨日のことかのように鮮明に覚えている。
あの日、チップを受け取ったあと、後ろ姿を見つめてしまったせいで気づかなかったが、かなりの額をいただいていた。たかだかバラでこんなに頂くわけにもいかず、後を追いかければよかったと、帰ってきてから思ったのだ。
本当は返したいが、また会える保証などどこにもないし、きっと見ず知らずの少年にお金を差し出されるのは不快であろうと考え、申し訳ないが頂くことにした。
いつも休日稼いだ分は、次にバラを売りに行く時実家に届けるのだが、御主人様のことがあってまだ渡しにいけていない。休日分は全額実家に渡しているが、思い出が欲しくて、貴公子からいただいたチップを一枚だけもらってしまった。
子供っぽいが、これを握って眠ると安心して自然と睡魔が襲ってくるのだ。
今週の日曜日は行けるだろうか。また、会えるだろうか。
(神様、また貴公子様に会えますように…)
御主人様を心配しているはずなのに、自分の欲のために出かけたくなっている自分が少し嫌いになった。
現在の設定
文字サイズ
行間
背景色
×
6 / 23