アダルトコンテンツが含まれます。
18歳以上ですか?
- 文字サイズ:
- 行間:
- 背景色:
-
9-3
-
屋敷を出てしばらくすると森に入った。
来た時は、木々の間から日差しが差し込み、幻想的な場所であったが、夜は薄暗く不気味である。馬車の前についているランタンだけが、唯一の明かりだ。目を凝らして森の奥を見ていると、暗闇に吸い込まれそうになる。
馬車が通る舗装された道以外、人間の手が施されていない。自然がそのまま生きていた。
「あっ!」
急に馬車が揺れた。右後輪が石を乗り上げたようだ。
「すまない。大丈夫か?」
エドガーは馬車の速度を下げた。
「はい、急に大きな声をだしてしまい…」
「「すみません」は言わない約束だろう。すまない、今のは私が悪かった。実は、運転するのはかなり久しぶりなんだ。かっこつけて走らせたはいいものの、夜は怖くてね。…幻滅したかい?」
「そ、そんな!幻滅なんてするはずありません!…あの、少し意外です。夜が怖いだなんて…ふふっ」
「こんなことで笑わないでくれ。ここは特に暗いだろう。少し、苦手なんだ。」
エドガーは恥ずかしそうに言った。あまりにも意外だったので、自然と声が漏れてしまう。
(おかしい!夜が怖いだなんて!)
ウィルは失敬だと思いながらも、肩を震わせ、くすくすと笑ってしまった。
「ごめんなさい…ふふっ、…ロベール様にも、苦手なことがあるのですね。」
「ああ。たくさんある。」
少し拗ねてしまったのか、暗くてよくわからないが、口を尖らせているように見える。
「ふふふっ」
その様子が、よく見えないながらも想像するとおかしくて、また笑ってしまった。
「君はないのかい?苦手なこと。」
「僕は…そうですね、僕も、暗闇が苦手です。」
「嘘をつけ、笑っているではないか。」
「いいえ、嘘ではありません。…ロベール様と一緒なので…今は、怖くありません。」
本心からであった。
本当は、暗闇はすごく苦手であった。果てしない漆黒に、何度吸い込まれそうになったことか。ウィルは、計り知れない未知なるものが苦手であった。
(でも、今はロベール様と一緒だから…怖くない。)
ウィルは一頻り笑った。体に巻き付いていたものが取れて解放されたかのように。
「…今日、初めて笑ったね。…その笑顔、正面から見たかったな。」
「…ロベール様は、ずるいです。…僕だって、明るいところでお顔を拝見したいのに…」
照れ隠しで言ったが、もっと恥ずかしいことを言ってしまったのではないか、と思い返し、顔を赤くした。
馬車は、ウィルがわらわらと一人取り乱している間に、森を抜けていた。月明かりが煌々と輝き、先ほどの森とは対照的で眩しいほどである。
ふと、馬車が止まった。
現在の設定
文字サイズ
行間
背景色
×
15 / 23