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絵が描けない。
正確には、人物が描けなくなってしまった。
いや、思い返せば、自分の描いてきた絵は、どれも「人物」を描いたものではなかった。
自ら「美」を認め、描き続けてきたバレエダンサーの少女たちは、バレエを踊っている仕草に「美」があり、少女たち「自身」に「美」を求めてはいなかったのだ。
ヴィクトリアという、存在全てに「美」を感じる女神に出会ってしまってからというもの、一切の創作意欲がわかない。正直、想定外の出来事である。
今では恋と認めているこの感情の正体を知りたくて、ただ、少女を手に入れたくて、関係をつくるかのように、絵のモデルを頼んだのに。
モデルを頼んでしまっている現状、絵を描かないわけにはいかず、こうやって庭に赴きキャンバス越しにヴィクトリアを見ている、そんな日々が続いている。
木陰でゆったりとくつろぐ姿は、まるでヴィーナスのように美しい。そよ風や太陽の光全てが、ヴィクトリアのためにあるように感じる。
光を帯びた髪は琥珀色に光輝き、神々しさを身にまとう。バラを弄る繊細な指先からは、優美な音楽が聴こえてくる。白く、日に焼けていない肌は陶器のごとく美しい。
出会った当初からその美しさに惚れ込んでいたが、こうして細部を見てみると体が熱くなる。
美の女神はどのように乱れるのか。そのことを考え出したら止まらない。
ベッドシーツに散る金色の髪と、白い四肢。ああ、ミルク色の肌はバラ色の唇の如く染まるのだろうか。
ヴィクトリアが男であっても構わない。そもそも、神に性別など些細な部類は存在しないのだ。
ただ、心が通っていない中、体を求めてしまうのはそれ以前の問題だ。礼儀作法に反する。
ヴィクトリアの全てを愛している。思いが通わなければ意味がないのだ。
「…いかがですか?」
「……。」
こうして筆を止めていることは、ヴィクトリアにもバレているだろう。心配性な彼女のことだ。きっと、自分を責めているに違いない。
ヴィクトリアは自分に自信がないのだ。そんなことはない、パリ中、この国、いや世界で一番美しいのはヴィクトリアだけなのに。
理性が働いている今は、情けないことに高ぶりを隠すことに必死になるしかなかった。
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