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「ハル、つまみ足りるかな?」
「足りなかったらコンビニ行こうぜ。ここから近いし。とりあえずハイ、乾杯」
「おつー」
「おつかれ」
ぐび、とグラスを傾けて、ハルが用意してくれたハイボールを流し込む。夜なのに、外の気温はまだ30度もあるらしい。今年は馬鹿みたいに暑い夏だ。
「俺、久しぶりに人に会ったかも」
「コタ、意外とちゃんと自粛生活してるもんな」
ハルはくく、と笑う。
ハルの言うとおり、最近はずっと家に引きこもっていた。
でもハルに会うなら、無理にでも髪色直しとくんだったかな。パーマはまだ生きてるけど、ベージュの根元が黒髪って結構ダサいんじゃないだろうか。
それにひきかえ、ハルの髪はいつも綺麗だ。なんというか、深い黒髪。
センターで分けられた前髪からは立体的な額がのぞいて、すっと通る鼻筋に、これまた真っ黒な意志の強い瞳、薄い唇。
芸術品みたいなハルの顔を睨むフリしながら、「意外ってなんだ意外って。失礼な奴め」とふてくされる。
「うそうそ。偉い偉い」
「そーやってバカにして!」
「してないって」
そう言ってハルは、俺のグラスにハイボールを注ぎ足す。
「次はコークハイがいい」
「はいはい。コタほんとハイボール好きな」
なにがおかしいのか、ハルはずっと笑っている。ハルの笑顔を見られるのは今俺だけで、俺だけに向けられていると思うと俺もつられて笑ってしまう。
「あ、コタ。なんかみる?テレビ」
「やー、いいや。なんか毎日感染者数とかみんの最近しんどくて」
「わかる。いつ終わんのかなこの生活、とかな」
「そーそ。授業もオンラインだしサークルもできないし!最近ちょっとやばかった」
「おー。じゃあ今日誘ってよかった」
「ん」
ハルから「今日夜暇?」とメッセが来たとき、めちゃくちゃ嬉しかった。
サークルも飲み会もなくて、映画館もゲーセンも閉まっている。そんな状態で、会うための口実が見つからなくて。
サークルの他のやつらからはちょくちょくメッセで誘われてたけど、「暇だから飲もうぜ」とか「通話できる?」とかそんなんばっかで、それをハルにさらりと送る自信もなかった。
だからハルから連絡がきたときは二度見したし、既読がつかないように読んで、
すぐ開いたら怪しいからって2分あけて開いて、
返事早すぎたら引かれるかなって思って1分半待って、
やっと「あいてるよ、どうした?」って送った。
「俺んちで飲まない?」、そう誘われて今に至る。
「バイトは?」
「最近行けてない」
「コタのとこ、居酒屋だもんな。閉まってんの?」
「や、一応時間短縮で開いてんだけど、人来なくて。だからシフト削られた」
災難だな、とハルはスーパーで買った唐揚げに箸を伸ばす。
「そうそ、サイナン」と答えたけど、こうしてサシ飲みができているのは、しかもそれがハルの家だというのは、俺にとっては幸運なことで。
たぶん全く心がこもっていなかったと思う。
きっといつもだったら、集合場所はどっかの居酒屋だっただろうし、サークルの奴らに適当に声かけて、集まった適当なメンツで適当に酒飲んで。
そういう適当な飲み会でハルと2人で話せることもあったけど、なんだかんだ誰かに邪魔される。
自粛生活には結構参ってたけど、こうやってハルとゆっくり話せるなら、今まで頑張ってきた甲斐があるってもんだ。
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