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林間学校*1
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Side.日下部涼祐
朝は早い。
特に今日は。
「ゆーひー。いつまで寝てんだよ。」
寝室へ行けば、すやすやと気持ちよさそうに寝息を立てる夕陽がいた。
夕陽の学年は、今日から2日間、林間学校だ。
「おい。…起きろ。」
夕陽が大切そうに抱え込む布団を無理やり剥がすと
夕陽はようやく目を開ける。
「あっ、にいちゃ……ごめ、」
「朝の挨拶はごめんじゃねぇ。」
「あっ、ご…ごめんなさい…おはよう…。」
夕陽から貰ったおはように、俺は何も返さない。
代わりに親指をリビングに突き出して、朝食ができている事を示した。
今日から、夕陽が居なくなる。
そう思えば、無意識のうちに夕陽の身体を酷く求める自分がいて
昨日も遅くまで、夕陽を泣かせ続けた。
怠そうな歩みと少し腫れぼったい目元
それから俺が呼びに行くまで目を開けなかったのも全部
…俺のせいなのに。
夕陽は今日も、俺に謝るばかり。
「に、兄ちゃんはまだ家にいても…」
「いいから行くぞ。」
「…は、ぃ。」
俺は夕陽との生活が第一で
林間学校なんて行かなかったから
せめて、夕陽には楽しんでもらいたい。
寝不足の続く重たい目蓋を擦り、
夕陽の前を歩いた。
学校につけば、夕陽と同学年の生徒がちらほら集まり出している。
その中には勿論、アイツも居た。
「夕陽、おはよ!……と、りょうすけ先輩…。」
俺と目があった途端に顔色を変える、
夕陽の友達。
普段ならば、俺が夕陽の全てを管理する。
そうでなければいけないから。
そうでなければ、俺が壊れてしまうから。
…でも、この先は俺には流石にどうしようもない訳で。
「……こいつの事頼んだぞ。」
「っ、別に言われなくたってーー…。」
生憎会話を交わす気はない。
何かぶつぶつと言っているそいつとはそれ以上目も合わせず
夕陽の頭に手を置いた。
一瞬、ビクリと肩を揺らす仕草に
辛くて、罪悪感に苛まれながらも
堪らなく理性を打ち負かしそうになる興奮を、ぐっと堪えて
「じゃあな。…着替える時、誰かに見られんなよ。」
「…ぁ、……ぃ行ってきますっ。」
「ん。」
昇降口に向かいながら
夕陽の何か言いたげな表情を何度も映し出した。
制服を脱げばそこかしこに見える痣と
俺の残した鬱血痕。
全部、全部、兄ちゃんのせいだって
一度だって俺に歯向かってきたことはない。
夕陽はいつも、自分を卑下して
夕陽はいつも、俺に謝ってばかり居て
…俺は、何をしたいんだろう。
本当は、夕陽を自立させるための行事なんかに参加させたくはない。
夕陽は俺だけの夕陽でいい。
俺しか知らない夕陽でいい。
だけど、これ以上夕陽の自由を、幸せを、奪いたくは…ない。
俺が居ない2日間、夕陽はきっと楽しく過ごせるんだろうな。
自分が惨めで、乾いた笑いが空に消える。
「…んだよ、まだ校舎鍵かかってんじゃん。」
誰も居ない昇降口の前で
夕陽を乗せて動き出す大型バスを眺めた。
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