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9.夜の迎え
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ー
はぁ…はぁっはぁ……っ…
「…?」
声…?
あれ…僕いつの間に寝てたんだ。体、痛い…。そっか、ベンチの上でなんて寝てたから。それに、すごく、寒い……。いま、何時くら…
「……っ凜人!」
はっ……
見覚えのある声が近くで聞こえた。僕はベンチから立ち上がり、恐る恐る声のする方を向いた。そこには、スウェット姿にいつも整えられている黒髪を四方八方に乱しているあの男の姿があった。
あ……っ!
僕は男のこちらを見る姿に体を固まらせた。……見つかった、嘘、自分ではかなり遠いところまで走ったつもりだったのに、…嘘、うそ。
「……凜人」
「……あ」
こちらに近寄ってくる男に僕はビクッと体を揺らし後ずさりをする。
「…どうして逃げるんだ」
「…っ」
「金もないくせに、お前の身一つで何が出来る」
「逃げるのは当然だ…っ!」
僕は猫を抱えながら男に向かって声を張る。
「…僕は犬じゃない、僕は人間だっ!あんたの所有物じゃない!」
「……」
言ってやった、言ってやったぞ、僕はこの男に。言ってやった…!
「ふん…生きる気力が湧いたみたいだな」
「っ、……ああそうだよ、あんたが余計なことしてくれたお陰でもう少し生きようと思った、だけどそれはあんたと2人でじゃない…!僕は、1人で生きていく」
ああ、そうだ。この猫と共に…生きられるその時まで。ただ静かに、平穏に…僕にはこの猫と少しの金があればただ、それだけでいい。多くのものは望まない。この男といてわかった。僕にはまだプライドがあることも、死ぬのはまだ早いことも。自由に生きられることがどれだけ尊いことかも。
もう少しだけ、もう少しだけ生きよう。…頑張ろう。
「……終わりか?」
ビク、
伏せていた目をハッとあげた時には男は僕との距離を縮めた場所にいた。
「っ…く、来るな…!」
僕は震える手であの時のようにポケットからカッターを取り出し男に向けた。片手に抱えていた猫はにゃあっと声を上げて僕の胸元から離れていった。
「また、それか?」
ふっと笑う男に僕は唇を曲げ眉を寄せる。
「な、…舐めんなっ!!」
「威勢だけはいいな。お前に俺が刺せるのか、お前に俺を傷つけることが出来るのか」
「…!なに…っ」
「お前は出来ないよ。お前は、優しい子だから」
…!
なん、なんなんだ…この男、この男、は…。マインドコントロール、そうだ、そうに違いないんだ、そうに違いないんだッッ。
「……だ、黙れっっ!」
「…」
「僕に関わるなっ!!帰れー!」
「…なに?」
びく…
「……ぁ…」
また、あの怖い顔をして男が僕を見つめていた。
「…いい加減にしろよクソガキ。俺の手を煩わせてんじゃねえ!」
「……っ」
…怖い、何なんだこの男、僕以外に探せばいいじゃないか、あんたの言うことをきちんと聞く犬を、奴隷ってやつを…。何で、なんで僕なんだよ…!こんなところまで追いかけてくるなんて…なんて奴なんだ。なんて奴なんだ…っ!ああ、恐ろしい、本当にこの男は恐ろしい…!
「あっ!!」
そうこうしている内に傍までやってきた男にガッと腕を掴まれた。
「嫌だ!離せ!離して!」
「でけー声出すんじゃねえよ!!この場で犯されたいのか!!」
ビクッッ
………ほんと、……恐ろしい男。…そんなの、酷い、酷すぎる…。そんなのは、ただの脅迫じゃないか…。
「…やっと静かになったか。躾のなってない犬め」
「……」
「おら、帰るぞ。その猫は?」
「………。……僕の猫だ」
「へーぇ。犬が猫を飼うとはな。こりゃ傑作だ」
あっはっはと笑う男の横顔を僕はじろりと睨みつけた。畜生……逃げきれたと思ったのに、畜生…。畜生……
「俺から逃げられると思うなよ。お前を拾ったのは俺なんだ。もう二度と余計な真似はしないことだな」
男は睨む僕に向かって振り返り、釘を刺すようにしてそう言った。
こうして、僕の脱出は失敗に終わった。
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