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そのご16。sideーs
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ゆっくりと進む時間を、それでも早いと感じるのは
少しでも長く啓斗君のそばにいたいからで。
退屈している時はいつまでたっても時間は進まない。
反対に、慌ただしい時やこのまま時が止まればと思う時はあっという間に時計の針が進んでしまうものだ。
今は、迷うことなく後者。
「…暗くなったね。」
「そうだな。そろそろ…準備するか。」
何をするでもなく、何を話すでもなく
ただずっと、啓斗君の温度を感じて
互いの体温を忘れてしまわないように、移し合っていた。
話したいことは探せばきっと沢山あった。
けれど、そんな話題を考える暇があれば
啓斗君を感じていたくて
そして多分、それは啓斗君も同じで。
気付けば日は暮れて、空は薄闇色に姿を変えていた。
「俺も駅までついてく。…カバン一個持つよ。」
「あぁ…悪い。」
「んーん。片手あけば手繋げるっしょ?」
いまだに名残惜しそうではあるものの
目元の腫れも引いて、また笑ってくれるようになった啓斗君と2人で
たくさんの思い出が作られた家を出た。
そこから、小さな公園の前を通って
本当は通り道じゃないけど、少し遠回りをして啓斗君と初めて会った店の前を通って
歩道橋を歩けば、俺たちが繋いでいるこの手を離す場所である駅がはっきりと視界に映し出されて
また、視線は足元へ向く。
荷物は重たいはずなのに
意識的に、歩くスピードを遅めたりもして
そんな俺に、啓斗君は何も言わずに歩幅を合わせてくれた。
それでも、少しずつでも前に進んでしまえば
どうしても辿り着いてしまう駅の入り口。
啓斗君は、わざわざ入場券を買って
新幹線のホームに着くまで俺のそばにいてくれた。
本当にギリギリまで、俺にくっついてきてくれた。
俺の我が儘にここまで忠実な奴、見たことねえよ。
ほんとアホ。
周りの目を気にしなさすぎる俺も悪いのかもしれないけど
啓斗君もその辺は結構図太いのか
家を出た瞬間から今まで、一度も手だって離されない。
ただ、触れていたいその一心で。
『ご案内いたします。この電車は、○○○号……行きです。途中の停車駅はーー…。』
キーンと耳をつんざくような騒音が行き交う中
俺の乗る新幹線の案内放送が始まった。
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