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side寿璃(inside)
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意識が戻ったのは、夕暮れの、ものの輪郭が全て薄ぼんやりと宵闇に沈んでいる頃だった。
ぎしぎしと音がしそうに軋む体を無理矢理起こした。
父は、またどこかへ出かけたらしい。仕事か、それともお酒かパチンコ。
まあ、俺は知らなくていいことなのだろう。
どろりと足の間に、白いものが伝う。
気持ち悪くて、風呂に入ろうとよろよろ立ち上がった。
ボロきれのような服を、これ以上破かないようにそっと脱ぐ。こんなになっても、まだ着なきゃならないから。傷に布が擦れると、思わず呻いてしまった。痛い。
きゅっと蛇口を捻って、出てくる水がお湯になるまでの間。風呂場の鏡に映る自分と目を合わせていた。
「……きたねー…」
青とか赤とか、黒、茶色。俺の肌は、綺麗な肌色のとこなんかほとんどない。
「……はは…、はははっ」
きったねえ。なんだこれ。なんだ、俺。
いつもクスリ打たれて犯されて、頭馬鹿にして逃げないとやってらんないのに。
今更冷静な「俺」なんか、帰ってくるなよ。
「あーー、はは、……ぅ、え……ぉぇえ……っ」
クスリの副作用か、はたまた精神的なものか、胃の内容物が逆流してくる。
気持ち悪い。汚い。痛い。もうやめたい。
鏡に映る醜い自分を殺してやりたい。
死ね、俺。死ねよ。
近くにあった剃刀に自然と手が伸びていた。
痛みを殺せるのは、同じ痛み。
既に幾本もの傷が着いている腕にその刃を当てて、強く押し付けながら横に引いた。
熱いような痛みと、遅れて溢れ出る赤。
もう一度。痛みと赤。
もう一度。赤。
もう一度。
もう一度。
赤。赤。赤。
気がついたら腕にはまた数えきれない程の赤い線が出来ていた。
それでもまだ、「俺」が死なない。
最早腕に痛みは無くて、それが更に胸の痛みを抉った。
腕から目を上げて、曇った鏡を拭った。「俺」と目が合う。
伸び放題の髪の隙間から、じっとりと暗い、光のない目が。おれなのか、俺なのか。
どうすれば、「俺」を殺すことができる。
冷静さなど、理性などいらない。
父に愛されるために、愛されることだけ考えて、痛みも傷も何もかもを愛と受けとることができる「おれ」にならなきゃ。
「死ねよぉ……」
もういやだ。なにもかも嫌だ。「おれ」すらももうやめてしまいたい。
そうして鏡に爪をたててみても、何も変わらなくて。
汚れて絡まった髪の隙間から、おれを、汚いって、目で、見てくる、
「きた、ない、なぁ、」
汚い。
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