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次の日の朝、いつもの駅に、
いつもの様にスーツ姿の浅科さんがいた。
朝の混雑した構内の、たくさんのざわめきの中で、
その人はいつもの様に俺を見つけて、口元を緩ませた。
「よぉ。ちゃんと起きれたな。」
「……なんだそれ、バカにしてんのか」
このクソ暑い中、きっちり首元までシャツのボタンを留めてネクタイを締めているその姿は、
まるで〝性欲なんかありません〟とでも言うかの様に清潔感に溢れていて
逆に、
昨日の夜の汗ばんだ肌や、手に伝わる熱さと硬い感触が呼び起こされた。
「……暑苦しい。」
そしてその〝清潔感〟を崩してみたくなって、
俺は、きっちり閉じられた首元のボタンに手を伸ばした。
「…おい、」
ホームの端とはいえ、朝の混雑の中、行き交う人の視線を気にして、浅科さんがやんわりと制止する。
俺はそれを無視して、
ボタンを外しながら、キツく締められたネクタイを緩ませる。
ボタン一つ分、はだけたシャツの隙間から覗く肌の色は、裸そのものよりもエロい気がした。
「朝っぱらから何やってんだお前、」
少し呆れた様に、でも満更でもない風に言うのが少し可笑しくて、たまらない気分になった。
「すっかり機嫌治ったな。」
「……っるせぇな…」
そう笑われて、昨日の夜、自分が何に不機嫌になったのか思い出そうと記憶を巡らせたけど、
なんだかほだされてどうでも良くなった事しか思い出せなかった。
ふいに、浅科さんが昨日の夜に言った言葉を思い出した。
〝週末泊まりに来いよ〟
確かにそう言った。
「浅科さん、明日休み?」
「……明日?…は、休みだな。」
「あれ、じゃあ〝週末〟って、今晩から泊まりに行っていいって事?」
「…え?あー…そうだな。そっか、金曜日か今日。」
「週末泊まりに来いって言ったよね、自分で言ったよね?」
「……言った、な。」
〝そんな事言ったっけ?〟とでも言い出しそうにすっとぼけている浅科さんに、念を押す様に続けた。
言ってないとは言わせない。
例え言葉のあやとかそういう物だったとしても。
「言ったけど…、」
「は?」
「お前、毎日の様にうちに来てるけど、課題とか大丈夫なのか?いろいろと。」
急に思ってもない方向に話を振られて、思わず言葉に詰まった。
「勉強に支障が出る様なら却下するからな。」
「……分かってるっつの、それくらい」
勉強?
どうでもいいだろ、そんな物。
そんな物、頭の片隅にも無い。
俺は
日に日に、会う度にほんの少しづつ縮まる距離と、その先のやましい事しか頭に無いんだから。
「早く夜になんないかな。」
「まだ電車にも乗ってないのに何言ってんだよ。」
ざわめくホームに、電車の到着を知らせるアナウンスが流れる。
吹き抜ける生暖かい風が、怠さを底上げする様だ。
「もう帰りたい。」
「それは分かる。」
俺の心からの呟きに、
浅科さんがネクタイを締め直しながら、笑い混じりに言った。
そんな、
昨日の余韻に浸った様なやり取りを、遠くから眺めている奴がいた事に、
熱に浮かれた俺が気付く事はなかった。
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