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くっそ、なんで俺がこんな事、
腹の底からイライラしながら、俺はテキストを片手に構内を歩き回っていた。
数分前、帰り足で正面入口に向かっていたら、後ろから名前を呼び止められた。
振り向くと、顔は見覚えがあるけど名前が出てこない同じ学部の奴が、息を切らせて走りよって来た。
「あれ、吉野じゃん。」
茶髪でマッシュヘアの、量産型男子学生のテンプレみたいなそいつを、
隣で様子を見ていた駒場は〝吉野〟と呼んだ。
「良かったー、気付かれないかと思った…」
「…何?」
ろくに喋った事もない奴に急に呼び止められて
意図がまるで分からなかった俺は、少しムッとしたのを隠す事も無く聞き返した。
「悪いんだけどさ、…これ、真木に、渡しといてくれない?」
「…は?」
「さっき真木に借りたんだけどさ、明日休みだし、今日中に返したいんだけど、俺どうしてもすぐ帰んなきゃなくて…っ」
言葉から状況が理解出来てきて、嫌な予感が膨れ上がった。
「悪いんだけど、これ真木に返しといて。」
同じセリフを、今度は勝手に決定事項にして言うと、
その吉野という奴は俺にテキストを両手で押し付けて、身を翻す様にして走り去って行った。
「……駒場、」
「知らねぇよ、自分で渡せば。」
俺に丸投げされるのを察した駒場は、心底迷惑そうに、手で追い払う仕草をして拒否した。
仲が良いわけでもない奴の、急な無茶振りに腹の底からイライラしてきて、
通路のゴミ箱にテキストを放り込んでやろうかと思った。
けど、受け取ってしまった手前、それをすれば後々更にめんどくさい事になる様な気もして、
自分でもアホらしいと思いながら、俺はテキストを片手に、真木を探して歩き回っていた。
真木 健(まき たける)とは、去年駒場を通じて知り合った。
気性が荒くて、横暴で、血の気が多い。
悪知恵ばかり働く奴で、ろくでもない事ばかりしている奴だった。
俺は俺で、実家暮らしから解放されて、誘惑だらけの一人暮らしにハメを外しまくっていた時で、
妙にお互い気があって、駒場や芳賀も交えてバカ騒ぎばかりしていた。
だから、あの吉野という奴も、俺と真木が仲が良いと思って〝これ〟を押し付けて来たんだろうな、と思った。
状況が変わったのは、つい数ヶ月前。
俺は真木に流されて、あいつと一線を越えた。
目先の欲に眩んで、好奇心に負けて
一度越えてしまったらあとはなし崩し的に堕落していって
場所も時間も関係無しに、要求されるまま流された。
まるで搾取される様な行為。
俺がだんだんそれに疲れて、浅科さんの事が頭から離れなくなって
自分で自分を誤魔化す事も出来なくなって、
拒否したら逆ギレされて罵られた挙句、ぶん殴られた。
それ以来、話すどころか顔すら合わせていない。
俺はもちろん、向こうも俺を避けている様に思えた。
なんで今更、あんな野郎と接点なんか持たなきゃならないんだ
くっそ腹立つ。
こんな物捨てて無視してしまえばいいのに。
結局、それも出来なくて真木を探している、中途半端な自分に腹が立った。
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