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キッチンの戸棚から出した、ハイボールグラスを二つ、テーブルに並べる。
〝あわよくば、…最後まで、〟
そんなやましい思惑を、琥珀色のアルコールと一緒に注いだ。
そこに、炭酸水を注ぐと、気泡が弾けて音をたてた。
「それ、俺の分?俺はいいのに、」
夕飯の皿を持って来た浅科さんが、二つ並んだグラスを見るなりそう言った。
「なんで、一杯くらい飲んでくれたっていいじゃん。」
普段、付き合いでしか飲む習慣が無いらしい浅科さんは、
いつもは俺が飲むのを眺めるだけで、自分は口にしない。
今日くらい、
酔って少しくらい、タガが緩んでしまえばいい
酔いのせいにして、勢いでラインを越えてしまえばいいのに。
こういう発想がクズたる所以なんだろうけど、そう思わずにいられない。
そうこうしているうちに、
あっという間にテーブルに、ミートソースのパスタと、ツナとレタスのサラダが並べられていく。
「浅科さんって何でも美味く作るね。」
「美味くって言ったって、これレトルトのソースだぞ?」
俺の言葉に、浅科さんが
フォークにくるくるとパスタを巻き付けながら笑い混じりに言った。
「俺、それすらしないもん。そもそも電気ケトルしか無い。」
「鍋とかフライパンとか無いのか?」
「使わないし。」
「まぁ、確かに、お前が料理してる姿は想像出来ないな。」
柔らかく緩んだ口元に、琥珀色のグラスが近づくのをじっと見つめた。
正直に言うと、
今、俺は夕飯の味なんかよく分かってない。
テーブルを挟んで向かいに座った浅科さんの、
フォークを持つ右手や、
食事を咀嚼する口元、それを嚥下する度に動く喉仏
そういうものばかりが気になって仕方ない。
アルコールを流し込んだら今度は変なスイッチが入る
俺のお決まりのパターン。
酔わせようとして酒を盛ったのに、自分が先に酔いに飲まれてる。
頭の中がごちゃごちゃして落ち着かない。
憂うつと、苛立ちと、欲が目まぐるしく渦を巻いている。
「お前、やっぱり何かあっただろ?」
「…え?」
テーブルの上の
空になった皿を重ねながら、浅科さんがふいに言った。
「うわのそらに見える。」
ほら、
やっぱり
気付いて欲しくない事はすぐに見抜く。
「死ぬほど嫌な事があったって言ったら、上書きしてくれんの?」
ドーピングに後押しされて、思惑通りの言葉が口からこぼれた。
伏し目がちな薄茶色の目が、俺を静かに見据える。
「ずいぶんタチ悪い酔っ払いだな。」
「酔っ払いの憂さ晴らしに付き合ってよ。」
素直な一言が言えなくて
可愛げ無い言葉でしか伝えられない。
思惑と本音。
それをどこまで見透かしてか、浅科さんは口元を緩ませて、俺に向けてその手を広げた。
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