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待って
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「兄……さん……」
「テツヤ……!?」
僕は、兄さんに追いついて、声をかけた。
兄さんは、僕の声を聞いて驚いたようだ。
「どうして、ここに……」
「お見舞いです。……黄瀬くんの」
「なっ!?」
「聞きました。兄さんがあんなことしたんですよね? どうしてですか? 僕のため、……なんですか?」
「……………………………………」
無言で返されると、感情がわからないから怖い。
「もしも僕のためなら、もうやめてください。黄瀬くんは僕のことをわかって謝ってくれました。他のキセキの皆さんだって、きっとわかってくれます。だから……」
「違う。おまえのためなんかじゃない」
「だとしても! もうラフプレーなんてやめてください! バスケを穢す行為です! お願いですから!」
「やめねぇ!」
病院のロビーで、兄さんの言葉が響いた。
「ひとの痛みは蜜の味。やめるわけねぇだろばァか」
「兄さん!」
顔が見れないことが、こんなに怖いことだなんて思いませんでした。
兄さんの考えていることが、まるでわからない。
「キセキなんて呼ばれていきがってる奴らの苦痛の表情なんて最高だぜ? 見せてやろうか? あー、でもその目じゃ見れねぇか。ふはっ」
なんで、そんなこと言うんですか?
兄さんまで、僕を嫌いになったんですか?
「じゃあな」
そう言って、立ち去ろうとする気配。
「待って! 兄さ……っ」
慌てて手を伸ばして掴もうとするが、追いつかず車椅子から落ちてしまいました。
それでも、懸命に手で前へ進んで、兄さんに追いつこうとします。
「兄さん……! 兄さん……!」
けど、全然追いつきません。
足が動かないことが、こんなにもどかしいなんて、思いませんでした。
兄さんに、届かない。
なにもかもが、遠くて。
子供だったあの頃、一緒にバスケをして笑いあった兄さんは、どこにいるの?
お願い。
待って。
行かないで。
兄さん……。
「兄さん…………!」
あの頃の兄さんは、もういないのですか?
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