アダルトコンテンツが含まれます。
18歳以上ですか?
- 文字サイズ:
- 行間:
- 背景色:
-
正義感
-
side 飯窪
「大丈夫。隼人は何も悪くない。思い出そうとしなくていい」
無理に思い出そうと頭痛に苦しむ隼人くんをベッド横に座る桐生先生が宥める。
「殺した…?殺したからそんなこと言うの…?死んじゃったの?俺が殺したの?」
寝不足で酷い顔。隼人くんがどこまで思い出しているか分からないけれど100%自分だけが悪いと思っているのは分かる。
村上っていう先生をどうにかしなかったこちらに非があるのだと伝えたいのに。
あらゆるトラウマを掘り返してしまいそうで、できない。
「そうじゃない。あの時はそうなってもおかしくない状況の中に、お前を置いてしまったんだ。隼人が悪いんじゃない」
「俺が悪くないって、そんなの、相手の人が聞いたら…………。俺が悪いのに、俺が刺したのに……。なんで、思い出せないの…………なんで……」
たくさんの疑問に頭を抱え、涙を浮かべ懺悔する。
どう、したら。
「その人の家族に会いに行く…謝って、死んでくれと言われたら死ぬから………償わせて…お願いキリちゃん」
ケントくんが生きていると伝えたら謝りに行くと聞かないだろうから言わないでおくと決めたのが仇となった。
この子の口から『死ぬから』なんて言葉を聞くなんてさ。
「……………」
「いっそのこと…誰かが俺を刺してくれれば……」
隼人くんにはもう、『死』という選択肢しか見えていない。
根が優しく、まじめだから。
健康な精神でのほほんと生きていても、こうなったときの反動が凄まじい。
死ねる環境があったら迷うことなく死を選ぶだろう。
「…生きている。生きているから。…死ぬなんて言わないでくれ」
桐生先生の酷く辛そうな心の叫びだった。
だって、そうだよ。
この人が、なんとしても隼人くんに生きてほしいと思ったから治療して、隼人くんも生きたいと思ってくれたから頑張ってこれたんだ。
「生きているから。隼人はもう、たくさん苦しんだから。それ以上、自分を苦しめるのはやめてくれ」
「………………生きてる…?謝らないと………。同じ傷を付けてもらわないと……………俺、生きていけない…生きちゃいけない…………死んで償わなきゃ…………包丁………ロープ…………………」
焦点の合わない目で立ち上がり部屋を見渡す。
この部屋に凶器として使えるものなどない。
そう安心して部屋を歩き出した隼人くんを横目に、疲れ切った桐生先生が頭を抱える。
徐に引き出しの前にしゃがんだかと思うと。
俺たちは耳を疑った。
「ここに………ハサミが……」
俺が動くより先に桐生先生が隼人くんの肩を掴み。
勢いよく引いた。
当然そこにハサミは入っていない。
空っぽの引き出しを確認し、安堵するけど。
最悪の記憶が蘇り、鼓動が早まる。
「どうしてそこにハサミがあると思った!?なぜだ?答えろ、隼人。どうしてここにハサミがあると思ったんだ!!」
「えっ…わかんな………わかんない……」
「桐生先生。落ち着いてください。ここには何も入っていません。隼人くんびっくりしてますよ」
桐生先生がこんなに動揺して取り乱すなんて。
「………驚かせてすまない。少し疲れているようだ」
「キリちゃん………ごめんね……俺のせいで…」
怒鳴られたことでまた、自分を責める。
どうしたらこの悪循環から解放されるんだ。
隼人くんがケントくんを刺したことは事実だし、思い出してしまっているからどうしようもない。
でも何か、解決策はないのか…?
現在の設定
文字サイズ
行間
背景色
×
25 / 66