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人間不信
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「そうか。悪いな」
どれだけ悲惨でも状況報告は欠かせない。
内緒と言われたことも、ペットボトルを投げられたことも、死にたいと言われたことも全て包み隠さず報告した。
それが良いとは思わないけれど、この人は隼人くんの主治医であり俺の上司だ。
報告義務は守らなければならない。
「桐生先生」
「ん」
「僕、やっぱり働きます」
「答えを出すのが早いな。ちゃんと話し合ったのか?」
「いえ。僕の独断ですけど、ここで休んだら一生変われないなって気付いたんです」
「変わる必要が?」
「僕って中身ないじゃないですか」
「まぁ。それが扱いやすいんだが」
「でもそれじゃダメだって分かってはいたけど何より楽だったんで変えようとしなかったんです」
「支障がなければそれでも構わないだろう」
「駄目です。いつか言いましたよね。こんな人間が隼人くんの近くにいたら悪影響だと」
「あれはお前を知らないが故の」
「駄目だったんです。僕なんかがあの子の近くにいては」
「はぁ。お前まで」
「これはマイナス発言じゃないです。隼人くんのおかげで気付けたので」
「………」
心底めんどくさそうな顔をしているけれど、これは相談とかじゃなくて決意表明なので。
「僕、心臓外科医辞めようと思います」
「……」
言葉なきため息で呆れられていると分かる。でもね、聞いてくださいよ。
俺、初めて夢ができたんです。
この歳で。笑えるでしょ?
「カウンセラー目指してみようかなって。ゼロから勉強します。ここの精神科か、じゃなくても心療内科で働けるように。そしたらほら、桐生先生とタッグ組めそうじゃないですか?」
「お前な…。資格を取ったり場合によっては大学へ行かなければならない分野だぞ。それに結婚を控えているやつが仕事をしながらとなるとどうなるか…」
心配してくれているんですよね。
本当に優しいんだから。
「大丈夫です。中身パンパンにするだけです」
「意味が分からない」
「はは、ですよね。僕にもよく分かりません」
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