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三章二話 誕生日
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洗濯物だけ片した後、春哉は詩鶴とショッピングモールに来ていた。
「影井さん、どういうのが喜ぶかなぁ?」
「その気持ちが嬉しいんだよ。春君が選ぶものならなんでも喜ぶよ」
「えー? 僕だったら、要らないものは嬉しくないなぁ」
「ふふ、その内分かるようになるよ」
詩鶴がクスっと笑った。春哉は人生経験が圧倒的に少ない。ある意味、普通の子供が経験しない事を経験しているが、一般的な感覚が分からなくなってしまっている。
「ねぇ、ネクタイとかどうかな?」
「いいわね。春君、知ってる? ネクタイをプレゼントするっていうのはね、ある意味があるんだよ〜?」
「どんな意味?」
「ネクタイって首に巻くでしょ?」
「うん」
「あなたに首ったけってね」
詩鶴はクスクス笑うが、春哉は首を傾げた。
「首ったけってどういう意味?」
「惚れてるって事」
「え、え〜! そんな、僕が影井さんに惚れてるって?」
「あはは。冗談よ、冗談。女性から男性にプレゼントする時そういう意味があるって事」
春哉の顔は真っ赤になった。
拉致され、売られる前は恋愛などした事がなかった。初恋もまだである。
そういう内容の話題は照れてしまう。
「でもさ、影井さんにならどう思われてもいいよ」
「どうして?」
「僕は、影井さんのものだしね」
少しだが春哉の顔が暗くなる。それを詩鶴は見逃さない。
「よし! 詩鶴先生が春君になんでも好きな物買ってあげる!! 欲しい物ある?」
「えー? 大丈夫だよ。影井さんのプレゼントも出してもらうのに。あ、もちろんいつか返すけど」
「子供がそんなの気にするんじゃないの」
「十八歳だもん! 子供じゃないもん!」
「あはは。子供みたいなものでしょ〜。それで? 何が欲しい?」
「えーと、じゃあ……漫画! 小学生の時に読んでて、途中のやつ」
「分かった! お姉さんが全巻買ってあげる!」
「えっいいの!?」
「もちろん!」
漫画は連載が終わっており、二十巻まで達していたので、自宅配送してもらう事になった。
「わぁ、楽しみだなぁ。昔読んだシーンとか覚えてるところあるんだよ。主人公がかっこよくってね!」
「へぇ〜! 私も読んでみようかな。今度貸してくれる?」
「勿論だよ!」
そして、その後ネクタイを買い、食材とケーキも買って帰宅すると、もう七時を超えてしまった。
「どうしよ、影井さん八時に帰ってくるって」
「急いで作ろう。じゃ春君、玉ねぎ切ってもらえる? みじん切りで」
「うん!」
そして、料理を作り終え、テーブルに並べていると影井が帰宅した。
「ただいま」
「おかえりなさい」
「おかえり〜」
影井がダイニングに顔を出すと、驚いた顔を見せた。
「凄いな。二人で作ったのか?」
テーブルには、三人では食べきれない程の惣菜や、サラダか広がっていた。
「結構買っちゃったものも多いよね」
「ハンバーグと、このサラダと、煮物はちゃんと作ったやつだよ。ケーキもあるからね、早く着替えてきてね」
春哉が影井を急かした。空腹状態なので早く食事にありつきたいのだ。
春哉が少しの我儘を言うと影井は嬉しそうに微笑む。その顔が見たくてわざと我儘に振る舞う時もあった。
部屋着に着替えてきた影井を囲んで、誕生日の歌を歌った。
「影井さん、お誕生日おめでとう!」
「ありがとう」
「これ、プレゼント」
春哉は影井にリボンが巻かれている長方形の箱を手渡した。嬉しそうな笑顔を向けてくる影井。
心が踊りそうなくらい嬉しくなった。
「ありがとう……」
それを受け取った影井は、ちらっと詩鶴の方に目を向ける。春哉にはお小遣いを渡しているが、子供の小遣い程度しか持っていないと知っている。
金を出したのは詩鶴だとすぐに分かったのだろう。
「詩鶴さんに支払ってもらったんだけど、これは僕の借金だから、いつか僕が詩鶴さんに返すんだよ。だから影井さん心配しないで大丈夫」
「ん、分かった。ありがとう。詩鶴も、ありがとう」
影井は春哉の気持ちも受け取った。頭を撫でて春哉に感謝を述べ、詩鶴には頭を下げた。
完全にホームパーティーの様である。
そんな時に影井のスマホに着信音が鳴った。
「すまんちょっと出る……うわ」
スマホの画面を見た影井は明らかに顔を暗くした。
「はい。こんばんは。えぇ。詩鶴さんは今目の前にいます。えっ? いや、春哉もいますし、全然そういった事は……。
はい、夜ご飯を食べ終えたら帰しますので。
えぇ、ご心配なく……」
電話を切ると、はぁ〜と深い溜息をついた。数日に一度は影井のこういった姿を見るが、春哉は少し心配だ。
慌てた様子を見せたかと思いきや、終わると意気消沈している。
「浩二さん?」
と、詩鶴が聞いた。春哉には浩二が誰なのか分からない。
とりあえず話は聞くが、分からないので聞き流す。
「よく分かったな。帰りが遅いけど、俺と本当に浮気してないか? って」
「あははは。有り得ないよね。影井さん、全然タイプじゃないし」
「じゃあ浩二さんがタイプなのか?」
「んなわけ! あの人の持ってる金はタイプかもね」
「お前、ほんと悪い女だな」
「……詩鶴さんは悪い人なの?」
春哉がキョトンとした様子で尋ねると、二人とも苦笑して話題を変えた。
二人は子供扱いするが、春哉は十八歳だ。なんとなくの意味は分かっているので、説明して欲しいと思いつつ、聞かないようにした。
きっと知ってはいけない事もあるのだろうと思いながら。
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