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「すぐに…帰られますか?」
肩をすくめるのは夏目の癖だろうか。
特に身長が低いわけでもないが、常に背を曲げて俯いているから
俺よりもだいぶ小さく見える。
大きすぎるマスクに隠れてはいるが、その顔つきも年齢の割には少し幼い。
「発注の残りあるからまだ居るけど…何かあったのか?」
その時、夏目は様々な障害物を纏っていてもわかる程
頬を染めて幸せそうに笑った。
「…久しぶりに、一緒に帰ろうって連絡が来てたので。
もう少しここに居てもいいですか…?」
確かに聞こえた言葉と、今まで見たこともない表情。
嫌でも突きつけられたその事実に
思わず肩を落としたのはどうか気付かないでいて欲しい。
「構わないよ。…恋人?」
答えのわかりきっている質問だったが、それでもまだ僅かな希望に縋り付いてみるも
「……は、ぃ…。」
消え入りそうな小さな声が
いとも簡単に、微かな光をも塞ぐ。
それ以上は何も言う気になれず
暫し静かな空間にマウスのクリック音を響かせたのだった。
それから2、30分が経過しただろうか。
俺が作業を終えるとほぼ同時刻に、夏目の手の中のそれが鳴った。
今か今かと待ちわびていたらしい夏目の
ハッと息を飲む音を交えて。
「ちょうど良い時間だったな。俺も終わったところ。」
「っはい!」
そんなに元気の良い返事を今までにした事があっただろうか。
顔も知らない人物に嫉妬をするなんて
俺もまだまだ餓鬼だな。
「折角綺麗な顔立ちしてるんだから…普段からその返事して胸張ってりゃ客相手でもハッタリきくぞ。」
「あ、す……すみません。」
特に盛り上がるでもない雑談をしながら
揃って店を出た。
どうせなら、夏目の恋人の顔くらい拝んでやろう。
この恋を諦めるのはそれからだ。
「…ここまで来てくれるのか?」
「あ、はい…近くで仕事をしている人なので。
もうすぐ着くと思います。」
なるほど。
恋人もこんな遅い時間まで働いているのか。
まあこの辺りでというのなら、おかしな事じゃない。
夏目の彼女というならば、そうだな…。
コンビニの夜勤勤務か、ネットカフェ…カプセルホテルなんかでひっそりと働いているのかもしれない。
でも逆パターンもあるな。
一見静かそうな女性を好むように思える夏目だが
本当はネオンに飾られた店で働くような夜の蝶──
「翼。」
その時、ふと俺達の立つすぐ後ろから
俺ではない知らない誰かを呼ぶ声がした。
途端に輝きを増した瞳で振り返るのは
隣に立っていた夏目で。
「ナオ!」
夏目も誰かの名を呼ぶや否や、強く地面を蹴り上げる。
俺の思考を強引に終わらせたその声は
まるで氷の幕が張ったように瞬時に空気を冷やした。
いや、でも
まさかそんなハズ…。
──夏目をツバサと呼んだ声は
明らかに女性のものではない。
ナオなんていう名前は女性でも何らおかしくはないが、なんともあべこべな状況だ。
夏目の駆け出した方向に、恐る恐る身体を動かした。
「ねぇ翼。誰?」
「あ、りょ…料理長さんだよっ。ナオの事待ってたら、ちょうどお仕事終わったらしくて…出てきたところなの。」
目に映ったのは、夏目よりも背が高く、髪の毛をセットされた
それはそれはチャラそうな見た目の男。
まさか本当に夜の店の……?
いやそれよりも…男……だったとは。
「…へえ。
かーえろ?翼。俺もう眠いよ。」
「お風呂予約にしてあるよっ。今日はね……〜〜」
普段ならば、十分すぎるほど丁寧で
小さな事でも礼や謝罪を忘れないあの夏目が
サヨナラの一言も無く歩いて行ってしまう様を
俺はただ、呆然と眺めていた。
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