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過去
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1.
「あれ?え、要?」
部活の買い出しを頼まれ、両手に荷物を抱えて街中を歩くオレを、懐かしい声が呼び止める。振り返ると、短髪黒髪の見知った男子高校生が、少し細めの目を見開いて、信じられないものでも見たかの様にオレを見ていた。そんな表情すら懐かしい。中学時代の野球部の先輩だ。この人が卒業してから会っていないはずだから、1年ぶりの再会といったところだろう。
高校になってからも野球をしているだろうとは、何となく確信していた。肩にかけた大きなバックとその髪型が、今も続いていることを物語っている。あの時より、幾分か身長が伸びてオレを追い抜いており、大人っぽい表情になったように思う。
「ヘタレ先輩」
オレにそう言わせるほど、あの頃は決断力に欠ける人だった。
「お前…相変わらず口悪ぃな」
「ははっ、冗談ですよ。つばさ先輩」
そう言って笑いかけると、つばさ先輩は長い時間を置いてから「まったく…」と呆れたように呟き、大袈裟な溜息をついた。
久しぶりに会えたことに嬉しい気持ちはあったけど、正直、今のこのタイミングでは会いたくなかった。
「はぁっ!?誰お前!鷲見崎に近寄んなし!」
宮本一磨が、この上なくウザいからだ。
「どさくさに紛れて抱きつくな。放せ」
「えっ!鷲見崎、浮気?浮気なの?ねぇ!」
「とりあえず一発殴っていい?」
そんなオレたちを見て、つばさ先輩は目を白黒させている。そしてネタと思ってくれたのか、大爆笑してくれた。
「嘘だろ、宮本一磨じゃん!意外だな、要と仲いんだ」
「きーっ!いけすかねぇ!鷲見崎、オレはこいつ知らない!」
「落ち着け。田中 大翼(たなか つばさ)先輩。オレの中学ん時の先輩だよ」
そう。改めて思い出した。田中先輩のつばさは、翼と一文字でなくて大翼と書く。平凡な顔に似合わず大層な名前だな、と中学時代の監督が言っていた。あの頃は何とも思っていなかったのに、そんな事まで思い出してしまった。今思えば、監督は本当に歯に衣着せぬ物言いで、みんなから嫌がられていたな。まぁ、それに習ったのが、オレだけど。
「中学?」
オレの紹介に、何を思ったのか、宮本がピタリと止まった。大翼先輩は頷いて、宮本に軽く頭を下げる。
「ちょっと時間あります?そこ寄りません?」
オレが大翼先輩を近くのハンバーガーショップに誘うと、宮本が猛反対をした。先輩もそんな宮本の存在を少し気にかけていたが、オレが再度誘うと「それなら」と、時間をとってくれる事になった。
「鷲見崎、なんでだよ!せっかく2人でお出かけだったのに!」
「お出かけじゃねぇ、部活の買い出し。奈良と来るはずだったのに、勝手についてきたのはお前だろ。嫌なら先に帰れよ」
「マジつれない!」
以前から執拗にオレに構ってきていた宮本は、最近更にその執拗さを増した。原因、というか理由は分かっている。男同士ではあるが、宮本との付き合いを、オレが最近になって決断したからだ。好きとかどうとかは、正直まだ分からない。それでも良いと言われ続けていた。ただ嫌いじゃないし、オレも宮本の事を知りたい気持ちがある。あと、自分の気持ちもちゃんと分かりたい。友達でないなら、これはなんなのかを。
だからと言って、学校での関係とみんなの認識に大きな変化があるワケではない。オレ的には宮本の執着が増し、他人への態度がこんな風にあからさまで、毎回気を揉むけど、オレの心配はいつも杞憂に終わる。どうやら大翼先輩みたいに、仲良しのネタだと思われているみたいだ。何もない瀬野尾先輩の時は、あんなに広がるのが早かったのに。それが未だに不思議でならない。
「なんか雰囲気変わったな。水咲楽しい?」
ボックス席のオレの向かいに腰を下ろした大翼先輩が、不意にそう聞いてきた。
大翼先輩はつまり、オレの過去を知る人物だ。野球はまぁまぁ上手くて、中学時代サード兼サブキャプテンを務めていた。オレがいなければこの人がキャプテンをしていたはずだけど、ウチは怒声罵声の多い荒い野球部で、優しい大翼先輩ではなく、優しくないオレが2年生の時からキャプテンを命じられた。オレも例に漏れず、そんな指導方針だった。だけど、だからなのか、ウチの中学はオレの代でそれなりに強くなった。とは言え、宮本の記憶にも残らないほどの、大した中学ではなかったし、今ではあの時のやり方は良くなかったと感じている。
オレは、従順な大翼先輩が扱いやすくて嫌いじゃなかったけど、この人はオレが嫌いだったんじゃないかな。
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