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過去
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5.
「つーか、鷲見崎にも暗黒時代があったんだな」
ふと、宮本がそんなことを言う。暗黒時代…確かに今までの人生の中で、オレが1番荒ぶっていた時期には違いない。
「まぁね。今は水咲のみんなのお蔭で丸くなったのかも」
「ええー…水咲に来た方が尖りそうなんだけど」
「そうかな?キャプテンとか、すごい純粋じゃない?」
「マジで言ってんの?純粋な人間はあんな鋭い目つきしねぇよ」
「見た目怖いもんなぁ」
「実際怒らせたら面倒くさい」
「お前が怒らせるからだろ」
「いっそ気絶したいって思う時ある」
不破キャプテンが宮本に説教をしているところが目に浮かぶ。たいていコイツは話を聞いていない。キャプテンも賢い人だから、それには気づいていて、冷静沈着なキャプテンが唯一声を荒らげるのが、宮本だ。ほんと、いい度胸してるよ。
「あー、けど妬けるわ」
宮本が持っていた荷物を持ち直しながら、そんな事を言い出す。
「なにが」
「田中大翼は、お前の暗黒時代を知ってるわけだろ?それってオレの知らない鷲見崎だし。アイツと話してる時のお前、明らかにいつもと違った」
「それは…仕方ないだろ。誰よりも付き合いが長いんだから」
「しかも!下の名前で呼び合うとか」
「はぁ?」
そう反応する俺の顔を、宮本が急に見つめてきた。
「オレの名前は呼んでくれねーの?要」
無駄に整った顔と艷やかな声質で、俺の名前を呼ぶ。一瞬頭の整理が追いつかず、フリーズしてしまった。
「…えっ!?」
「要って、いい名前だよな」
「やめろ、気持ち悪い…」
「なに?また照れてんの?大翼先輩がいいなら、オレも呼んでいいだろー」
「お前は先輩じゃないだろ」
「お前じゃない、一磨、な」
「くっ…」
オレの顔を見ながらニヤニヤしている宮本に、本当に腹が立つ。だけど、ただ名前を呼ぶだけなのに、何故かすごく気恥ずかしい。今までだって、下の名前で呼ぶ相手はいたのに…どうしてこんなに意識してしまうんだ。
「ちょっと…今は無理」
「えー…」
「心の準備がいる。宮本の名前呼ぶの」
そう言うと、宮本が目を見開いたと思ったら、急に抱きついてきた。両手に荷物を抱えているもんだから、咄嗟に引きはがせない。
「ほんと可愛い!鷲見崎!」
「抱きつくな、離せ」
オレは膝で宮本のお腹辺りを押して、距離をとる。まったく、もっと考えて行動してくれねぇかな、コイツ。
「けどオレは、暗黒時代の鷲見崎のこと見てたとしても、きっとお前のこと好きだったよ」
「えっ?」
「あまのじゃくで、天然で、野球バカで練習ばっかりする。そこはきっと、昔っからおんなじだっただろ?」
「…その要素で、オレを好きだと言う意味が分からねんだけど」
「オレ、鷲見崎要バカだから」
そう言って、宮本が八重歯を見せてニッと笑う。その顔は、今までオレが知っていた宮本よりも幼く見える。知らなかったんだよな。コイツって、時々こんな無邪気に笑うんだよ。これが宮本の本心なんだって、つい信用してしまう。
「…ありがと」
「へ?」
「なんとなく、あの頃のオレがすくわれた気がする」
戻りたくもない過去だし、あの頃の自分をやっぱり好きにはなれないけど、そんな自分を受け入れてもらえた事は、嬉しいものだ。間違っていたけれど、必要だった。そう、前向きに思えるようになった。
すると、宮本が大きなため息をついた。
「なんだよ」
「お前ってなんで…そんな可愛いんだよ」
「可愛くねぇから」
「とりあえず、キスしていい?」
「が、学校を目前に何言ってんだよっ」
「じゃぁ、さっさと帰ろうぜ」
「そういう意味じゃない」
最後まで残ってくれたみんなに感謝を…大翼先輩の言葉が脳裏に過ぎる。どうすれば恩を返せるだろうか?今はただ、野球を辞めずにもっと上手くなって、あの時のみんなが自慢出来るくらいになることくらいしか思い浮かばない。それは今の仲間にも言えることだ。これからもっと、感謝の気持ちを返していけたらいいな、て思う。
あと、宮本にも。
to be continued...
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