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3.
続けて、4番サードにオレの名前が呼ばれ、5番ファーストに双葉先輩は自分の名前を言う。瀬野尾先輩の隣に並んだオレの横に、双葉先輩も並ぶ。
左横をこっそり覗うと、真っ直ぐ前を向いた瀬野尾先輩の横顔があった。こんな間近にこの人の顔を眺めるのは初めてだ。少し明るいサラッとした髪の毛を風が揺らして、くっきりとした意志の強そうな瞳が光っている。ちょっとモヤモヤするぐらい、マジでイケメン。今まで男に対して、こんなこと思ったことないけど。鷲見崎もカッコイイって思ってんだろうなぁ…腹立つー。
「6番ショート八木」
「はい」
鷲見崎が希望するショートに、八木先輩が呼ばれた。鷲見崎も自分がショートになれるとは思っていないだろうけど、ほんの少し残念そうにも見える。
八木先輩がいる内は、ショートのポジションを奪うことは厳しいだろう。この人、守備力半端ないし、守りの花形としてのプライドも高いから。可愛い顔して、けっこうやる。
残るスタメンは3人。その中に鷲見崎がいるわけだけど、当の本人は自分が呼ばれるとは思っていない様子だ。そりゃそうか。捕手は今までずっとキャプテンの球を受けてきた木庭先輩がいるし、この人賢い上に打てるからな。考えてないだろうな、自分が今年の内に公式戦に出ることになるなんて。
「7番レフト磯野」
「はい」
「8番キャッチャー鷲見崎」
「…えっ?」
鷲見崎の名前が呼ばれ、二軍以下の連中が一気に振り向く。みんなの視線を一身に受け、鷲見崎が目を白黒させている。
「オレ、ですか?」
戸惑いながら鷲見崎は双葉先輩と監督、そしてキャプテンの顔色を伺った。すると双葉先輩が「早く来い」とピシャリと言い放ち、鷲見崎は慌てて返事をすると小走りでこちらに向かってくる。
オレの前を通る時に、横目でチラリと見てきた。鷲見崎、言いたいことは分かってる。そうだよ、知ってた。だけど「言うな」って釘さされたからな。ヤバい。鷲見崎が思ってそうなことがスラスラ頭に浮かんで、にやついてしまう。
筋肉質な磯野先輩の横に並んだ鷲見崎に、二軍連中が嬉しそうな顔で手を振っている。それに小さくはにかんで応える鷲見崎。アイドルかよ。可愛すぎて心配になるんだけど。
「最後。9番ライト和谷」
「はい」
二軍の影から、和谷先輩が眠たそうな深い二重瞼を開いて、ゆっくりと出てくる。そう、こんな人だった。背が高くて特徴的な鷲鼻に端正な顔で目立つんだけど、主張が控えめで、なんかイマイチ存在感がないんだよな。特に二軍は個性が強いから。
だけど、たしか花田先輩が言ってたけど、瀬野尾先輩並に野球センスはあるんだよな。プレイにも顔にも、瀬野尾先輩みたいな花はないけど。
「以上が初戦のスタメン。あと、ベンチ。3年不破、木庭、湊(みなと)、江夏、内藤。2年紫垣(しがき)、蘇我(そが)、槇(まき)、手島、楠(くすのき)、佐藤」
ズラリと、地方大会のレギュラー20人が並ぶ。ベンチはさすがに一軍がほとんどだな。オレと鷲見崎以外は1年なしか。一学年上の先輩たちが豊作だったとは聞いたけど…来年が思いやられる。
今回の大会は毎試合スタメンが大幅に変わったり、ポジションがコロコロ変わりそうだ。投手だけでも4人は使える人がいる。けっこう思い切ったな、監督。
「以上がレギュラーだ。皆、大いに励むように。では、監督から」
キャプテンがそう言い、監督が前に出てくる代わりに、キャプテンが一歩下がった。
「今回のレギュラーはあくまで今大会でのメンバーだ。評価は随時している。終わった頃にはどの軍もひっくり返っている可能性もなくはない、ということを、肝に銘じておくように。特に、どっちつかずの二軍は」
監督の最後の余計な一言を聞き、阿久津先輩が舌打ちをした。一番端っこで、この人ホントに命知らずだな。だけどまぁ、こういうのを計算して言ってるからな。ウチの監督は食えないぞ。
監督への挨拶を終えて監督が去った後、キャプテンが今回のレギュラーは本番まで一軍との練習になる事を告げた。20分後に練習を始めることを付け足し、キャプテンが背を向ける。緊張の糸はそれで解れ、みんながそれぞれ話しだした。
オレも鷲見崎の方へ向かおうと振り向くと、鷲見崎が一目散にキャプテンの方へ走っていく。その姿を、瀬野尾先輩も目で追い、後からゆっくりと追いかけた。
「あの、キャプテン…」
「宮本、今回もよろしくー!」
「4番バッター固定ってホント強すぎ」
「あっ…」
聞き耳を立てようと鷲見崎を見つめていると、花田先輩と八木先輩がオレに話しかけてくる。邪魔しやがって、と思うのも束の間、その後ろには珍しい人がいた。和谷先輩だ。何故か花田先輩に捕まっている。
「…ども」
オレが軽く頭を下げると、向こうも小さく頭を下げた。起きてるのか寝てるのか際どいくらい、すげぇボンヤリしてる。大丈夫か、この人。
「直(なお)くん、起きてる?」
八木先輩がすかさず和谷先輩に聞き、和谷先輩が頷く。何となく、他の二軍連中を相手にしている時より、花田先輩も八木先輩も距離が近い。
「鷲見崎と一緒に出れるようになって良かったね」
「まぁ。アイツはどう思ってるか分からないすけど」
「希望ポジションじゃなくてもレギュラーはレギュラーだから。応援しようっと」
「八木ちゃんがそう言うと嫌味にしか聞こえないんだけど」
「え?なんで?」
「分かってるくせに」
「ふふ。ショート以外なら僕は大歓迎だよ」
「ほら、そういうとこ」
そんな話を聞きながら、オレは再び鷲見崎のいる位置に一瞬視線を戻した。不破先輩と木庭先輩のバッテリーと、鷲見崎といつの間にか瀬野尾先輩も加わって何やら話をしている。鷲見崎のあの顔。もう嫌な予感しかしない。
オレのその一瞬の視線に気づいて、花田先輩がその先を追う。
「八木ちゃんが言ってたこと、マジだな」
すると花田先輩がそんな事を口にする。その言葉の真意を確認するように、八木先輩も花田先輩の視線を追った。
「でしょ。雰囲気やわらかいんだよね」
「…瀬野尾先輩すか?」
「違うよ、キャプテン」
そう聞き、オレは目を見開いて再び鷲見崎のいる方へ目を向けた。ほぼ鷲見崎しか見てなかったけど、たしかに不破先輩が鷲見崎に向け微笑している。オレには鬼のような不破先輩が。
「え、なに…どゆことっすか?」
「八木ちゃんが前言ってたけど、キャプテン、鷲見崎のことお気にらしいぞ」
「ええ…鷲見崎はオレのなんですけど」
「鷲見崎ってほんとモテるんだね」
「はー…先が思いやられる…」
オレは今後を憂いて頭を抱えた。
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