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少ない荷物。これでも、身ひとつで連れて来られたあの日と比べたらだいぶ多い。
両親に置いて行かれた家から連れ去られ、事務所に連れて来られた俺は何も持っていなかった。ボロボロの制服とポケットに入っていた二つの飴玉。それがここに来たばかりの頃の俺の荷物だった。あの時の制服は、今もこのカバンの中にちゃんと入っている。
「インターホン押して、島木の名前を出せば開けてくれるらしいから」
「はい」
おじさんにそう言われて、もう一度門の脇のインターホンを確認した。
「俺はまた迎えに行かなきゃいけない人がいるから一緒には行けないけど、大丈夫だろ?」
「…はい」
あのインターホンを押せば、新しい生活と環境が待っている。そう考えるとなんだか不安で、指先が少し震えた。
「ほら、もう行きな。お待たせしたら俺も怒られるからな」
「あっ…ごめんなさい。そうですよね…俺、そろそろ行きます」
おじさんにぺこっとお辞儀をして、俺は門に向かって歩みを進めた。
何を躊躇う必要がある。俺にはもう他の選択肢なんて無いのだから、行くしかないのだ。そう心の中で強く繰り返しながら、一歩ずつ門へ近付いて行く。
もう少しでインターホンに指先が届く、そんな時だった。
「おい!やっぱりちょっと待て!」
「え?」
振り向けば、少し離れた所からおじさんが駆け寄って来ていた。何事かと驚いていると、おじさんは胸元から革張りのケースを取り出し、その中の一枚を俺に差し出した。
「これって…?」
「名刺だよ。なんかあったら連絡しろ。なるべく力になる」
「どうして…今日初めて会ったのに…」
「なんでだろうな。お前、ほっとくと幸せになれそうにない気がするんだよ。だから、ほっとけないっていうか…」
おじさんは、照れているのか歯切れ悪くそう言った。
「…ありがとうございます。行ってきますね、峯さん」
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