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「アハハ!最高だったな。」
「もう!松島さん、ひどいです!」
結果は、見事に空振った。
しかも、尻もちまでついた。
「こんなに運転神経が退化してるなんて思ってもいませんでした。」
「俺の方がオジサンなのに、全然動けてるもんな?」
「もう!!」
ふたりで通路にあるベンチに腰掛けて休憩をしている。
目の前では、カップルが楽しそうにバットを振っていた。
「甲斐くんは・・・。」
「なんでしょう。」
松島さんの顔を見ると、少し迷った表情をした。
「いや、チョコレートとスナック菓子はどっちが好き?」
「あー・・・。どっちも好きですね。苦手なのは生クリームです。」
松島さんが足の爪先を動かした。
「じゃあショートケーキはダメだね。」
「はい、ミルクレープも危ないです。松島さんは?」
視線をカップルに戻した。
ふたり仲良く空振りして笑っていた。
「俺は氷。かき氷とか、あの粒々が苦手かな。」
「へぇ、アイスクリームは大丈夫なんですか?」
「ん。好きだな。」
熱が引いて、落ち着いてきた。
「じゃあ、ピッチングでアイスクリームの勝負をしましょう。」
「あれ、アイスあった?」
入り口を指差した。
「自販機があります。あれで好きなアイスを賭けましょう。」
「オッケー!またボロ勝ちするからな?」
「今度はおれが勝ちますから!」
9枚のパネルを抜くゲームだ。
200円で12球投げる事ができる。
ふたりで勝負をして、またおれが負けた。
「ほら!また勝った!!」
「なんでかなー!絶対勝てると思ったのに!!」
松島さんは、上機嫌でチョコレートのアイスクリームを選んだ。
おれは、ソーダ味のアイスだ。
土曜ということもあって、子ども連れも多い。
小学生の男の子が、お父さんと一緒にピッチングゲームのコーナーに入って行った。
並んで購入したばかりのアイスを食べながら、遊技に打ち込む人たちを眺めた。
「・・・人間観察って、面白いですよね。」
「そうだな、あの子どもは父親が大好きみたいだな。」
「はい。」
父親の足に掴まって、ケラケラ笑っている。
「あのカップルも、付き合いたてのような感じです。」
「あー・・・、確かに微妙な距離感だな。」
アイスを包んでいた紙をピリッと破いた。
「俺たちは、どう見えてるだろうか。」
「友だち、ですね。」
一瞬、松島さんが黙った。
「・・・そっか、友だちか。」
「はい。」
ソーダ味のアイスを包んでいた紙は、綺麗な青空の色だ。
プラスチックの棒を咥えながら、おれはもう一度言った。
「仲の良い友だちで良くないですか?」
「・・・。」
松島さんが無言で立ち上がった。
そして、おれに右手を差し出した。
「次、卓球しようか。」
「おれ、強いですよ。」
そう言うと、松島さんは泣きそうな顔で笑った。
「嘘つけ。今度も俺が勝つさ。」
なら。
「今度おれが勝ったら、理由を教えてください。」
松島さんの顔が硬直した。
松島さんの目が、赤くなっていく。
「負けたら、俺のモノになってくれる?」
冗談めかした言い方なのに、顔は無表情だ。
なのに、目だけが異様に光っていた。
おれは、松島さんの手を掴んだ。
「松島さんのモノにはなりません。」
「・・・なにも俺、得しないじゃん。」
手を引かれて立ち上がった。
「友だちとしてなら、これからもお付き合いしたいです。でも、性的な対象は無理です。」
キッパリと断ると、握られた手を信じられない程強く握り締められた。
「・・・甲斐くん、言っている意味が分からないよ。」
背中から殺気が立ち上ったのが分かった。
それでも、おれは引くわけにはいかなかった。
「おれと、おれの愛する人との人生のために、おれは松島さんに勝つ必要があるんです。」
ふたりの間に、投球の重い音が響いた。
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