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旅立ち
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『平良さん・・・』
彼を呼ぶ声が情けなく震える
「どうしたの美郷、そんな悲しそうな顔して・・・泣いたんだね?」
『・・・。平良さんは、最初から僕を連れていくつもりだったんですね』
「・・・・・・!」
僕の目元に伸びてきていた腕はピタリと止まり、それからゆっくり降ろされた
代わりに僕の両手を包み込んでくる
「今聞いてきたんだね?・・・うん、その通りだよ。俺は最初から鷹さんに美郷を救ってくれって、ここから出してやってくれって頼まれて来たんだ」
『それじゃあ、僕によくしてくれたのは僕を懐かせるためだったんですか』
「なにを馬鹿なこと言ってるの。連れて帰るだけなら美郷の意思なんて関係ない。だけど、俺はお前に惹かれたから優しくしたかったんだよ」
ちゃんと僕の目を見て、落ち着いた声で紡がれる言葉たちに僕の心は溶かされていく
真実を知った今、鷹さんだけじゃなくて平良さんまで僕から離れていってしまうような気がして怖かったんだ
「大丈夫、何も恐れなくていいんだよ。俺は美郷が望まない限りお前を手放さないし、捨てることもしない」
『・・・・・・!』
「美郷が怯えているのはそこだよね?なんとなく気づいてたよ」
そう言って平良さんは僕を優しく抱きしめてくれる
平良さんは程よく筋肉はついているけど薄い体なのに、すごく安心してまるで包み込まれているような気持ちになった
『・・・・・・っ、うん、そう・・・僕、ずっと怖くて』
「そうだよね、よく頑張ったね今まで」
『ちが、僕は頑張ってなんか、』
「ううん、お前はよく頑張ったんだよ。いっぱい努力して、我慢して、自分も辛いはずなのに鷹さんを気遣って」
ぽん、ぽんと一定のリズムで背中をさすられて素直にポロポロと涙が出てくる
平良さんの肩がどんどん濡れていってしまうのに、彼は何も気にしてないかのように振舞ってくれた
「美郷、ちゃんと自分を認めてあげよう。お前はすごく頑張ったんだよ」
『・・・・・・!』
認める・・・?僕を認めてあげるの?
本当に認めてもいいのかな
だって僕は出来損ないで、悪い子で・・・
でも、平良さんが言うのならいいのかな
本当に辛かったんだ
苦しかったんだ
ずっと虐められてきて、なのに急に優しくされて、僕は鷹さんに依存するしかなくて
されるがままだったけど、その中でもちゃんと適応しようとしたんだ
どうやったら生きていけるのか、捨てられないのか、頑張って考えてたんだ
だから、いいのかな
認めてもいいのかな
「いいんだよ」
『・・・・・・っ、ありが、とうっ・・・平良さん、僕、頑張ったよ』
「うん、知ってるよ。とっても頑張ったね」
心がすっと軽くなる
今までつっかえていたものを吐き出すかのように止まらない涙を平良さんは笑って拭ってくれた
その日の夜、僕は平良さんと一緒に折り鶴を作った
平良さん、僕、鷹さんをイメージした彩りで3羽作って離れても一緒だよって意味を込める
折り鶴は幸せになれるよう願いを込めて作るんだよって平良さんが教えてくれたから、僕は精一杯祈りながら作った
夜ぐっすり寝て旅立ちの朝
初めてなりにがんばって、不器用な形になってしまった鶴を鷹さんに渡した
鷹さんは泣きながら大喜びしてくれて、なんだか僕まで嬉しくなった
照れながら3人でハグをして、そんなに多くない荷物を持って鷹さんのお屋敷を出ていく
鷹さんは笑って見送ってくれたから、僕たちも精一杯笑って旅立った
悲しくないよ、またきっと会えるから
だけど寂しいよ、しばらくお別れだから
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