アダルトコンテンツが含まれます。
18歳以上ですか?
- 文字サイズ:
- 行間:
- 背景色:
-
sr+my
-
mfsr+grmy
mfとgrいない
ほぼ会話
ーーーーーーーーーーーーーー
木々に囲まれた荒い登り道を進んだ先に心奪われるほど美しく輝く海が広がっていた。柵もなくあと一歩踏み出せば吸い込まれてしまいそうという所で足を止め海を覗く。見渡すが浜辺はなく、足元で波がぶつかるのだけが見える。遠くを眺めれば海と空の境界線にオレンジ色が溶け込んでいていて、唯一青年を照らすものだった。
「何処に行くの」
人が来ることのない場所で声をかけられ思わず振り向けば少し気だるげな男性が緩く口角を上げてこちらを見ていた。
どこに行くも何も、青年はもう目的地についていると言っても過言ではない。この場合、「何しに来たの」とかの方が正しい。
男性の放った言葉に違和感を覚えつつそれを聞くことも出来ないまま男性は青年の隣に立った。
「俺と同じ目してるね」
「…全然違いますけど」
「そういう意味じゃないよ」
男性はうっすら笑い声に交えて青年の言葉を否定する。そのまま自分の足元に視線を移して波がぶつかるのを眺めている。その様子に青年は目を離せないでいた。
「俺はこれから海に行くよ」
「山登って来たのに?」
「海に行くからね」
「意味あります?」
「あるよ」
「普通に浜辺行けば良くないですか?」
「それじゃダメなんだよ」
「…海に入りたいわけじゃないってこと?」
「入るよ」
「は?いちいち山登ってから行くんすか」
「純粋なんだね。俺と同じ目してるとは思えないな。同じ目的でここに来てるもんだと思ったんだけど」
「…あぁ、なるほど」
察してくれと言わんばかりに意味深な言葉を並べるその意図に気がついた青年は波音にかき消されそうな小さな声で呟いた。男性の横顔を見ていられずつい顔を逸らす。自分と同じとなんだと知って戸惑いが隠せなかった。
「…なんで海に行こうと思ったんですか」
「だって綺麗じゃん。行くなら海がいいなって」
「そっちじゃなくて」
「…そっちは?」
「海に行く気はないですけど」
「わざとでしょ」
「教える気がないのに聞くのどうなんですか」
「わかってて聞くのもどうなんだろうね」
言い返す言葉がなくむくれている姿を見て面白がった男性が青年の顔を覗いて声を弾ませた。
「名前は?」
「聞いてどうするんですか」
「いいじゃん、友達になろうよ」
「いやですよ」
「いけずだね」
「友達になったって会うことないでしょ」
「それもそうだね」
「…」
「後追い?」
「なわけ」
「なんだ、そこは違うのか」
「そう言うってことはそっちはそうなんですね」
「…」
声を弾ませていたはずの男性は口を結んでしまった。どこか寂しげな目を再び自分の足元に戻す。その様子を見て図星なんだと察した青年はそれ以上男性を見ようとはしなかった。視線の交わらない会話を続ける。
「恋人ですか」
「そうだとはいってないんだけど」
「いや、もう言い訳は苦しいでしょ」
「…まぁ、そうだね。そうだよ」
「じゃあ彼女さんはさぞ悲しむでしょうね」
「彼女じゃないよ。あと、あいつは喜んでくれるよ」
「なんでそう思うんですか」
「彼女じゃないとこには触れないんだ」
「別になんとも思わないんで」
「へえ、さすがだね」
「何がだよ。話そらそうとすんな」
「…俺らは繋がってるからさ、分かるんだよ。あいつは1人で頑張りすぎちゃうから俺がついてないとダメなんだよね。俺のこと大好きだし、喜ばない理由がないじゃん」
「じゃあもし立場が逆だったら、あなたは大喜びするんですか。その人の人生の選択肢はまだまだ沢山あるはずなのに」
「…」
「寂しがり屋なんですね」
「そっちはどうなのさ」
「俺は喜べませんね」
「こっちだけ一方的に知られるのは気に食わないね」
「そっちが口滑らすからですよ」
「その後詰めてきたでしょ、答えてあげたじゃん」
「頼んでませんけど」
「だったら詰めてくんなよ」
青年はノリ気ではなかったがまあ確かに良くないかなと思い仕方あるまいと意を決して口を開く。
「…人を殺したんです」
「へぇ、後悔してるの?」
「…なんで平然としてられるんですか」
「いや、なんで殺したのにここにいるんだろうと思って」
「…殺したから来たんですよ」
「自首すればいいじゃん」
「聞く耳持ってくれないんで」
「ふーん…」
「聞いといて興味無さそうですね」
「興味無いってか、それほんとに殺したの?」
「…殺しましたよ」
「動機は?」
青年は黙りこくってしまった。まるで痛いところを突かれたように顔を顰めて拳を握る。その様子を見逃さなかった男性は全てを察したかのように鼻から息を吐いた。
「それ殺したって言わないよ」
「殺しましたよ」
「でも自分の手は加えてないわけでしょ」
「…見殺しにしたんですよ。立派な殺人じゃないですか」
「それって恋人?」
「どうなんでしょうか」
「…ヘタレなの?」
「違いますよ。告白してきたの向こうですし」
「答えなかったの?」
「答えなかったって言うか…」
「ヘタレじゃん」
「だから違うって」
「いじめられてた?」
「…告白されてるのを誰かに見られてたみたいで、ホモだっていいまかれてて。肉体的なこともされてたっぽいんですよね」
「あぁ、彼女じゃないのに触れなかったのはそれか」
「そこかよ」
「ごめんて。にしてもいじめられてるのはそっちだったか」
「俺だと思ったんですか」
「相手が人気者だからいじめを受けてる君が答えにくくなってるやつかなーって思ったんだけど」
「別に告白があるまではどっちもいじめられてませんでしたよ」
「なんで君には被害が来なかったんだろうね」
「ノンケだと思われてたんだと思います。実際そうだったんですけど」
「その人のことは好きなわけだ」
「…まあ、」
「…自殺なのか他殺なのかは知らないけどさ、例えばその人が脅されてたとしたら、君がこんなとこにいるのはその人の死が無駄になっちゃうんじゃない?」
「は?なんで?」
「いじめられていることを誰かにいえば君に危害を加えるとか、死なないといじめの標的を君に移すとか、まあそんな感じのことを言われてたとすれば」
「…そんな、尚更俺が殺したようなもんじゃないですか…!」
「可能性の話であって実際どうかわ分からないよ。でも例えそうだとしても、君は自分が殺したって責任を感じるかもしれないけど君の好きな人からすれば君を守るためにしたことだよ。向こうはそんなこと思って欲しくないはずだし、見殺しにしたって言ってたけど、気にもしてないと思う」
「…っ」
「それでも、同じところに行こうと思うの」
男性の言葉に追い詰められた青年は反抗しようとする素振りを見せるだけで言葉は出る様子はなかった。男性はその様子を見てさらに追い込むような口調で青年に問いかけた。
「無駄になるんだよ、全部。君のために苦しいことを耐えてきたのに君が今会いに行ったら全部水の泡だ。その方がよっぽど彼にとって残酷な事だと思わない?」
青年は拳を握りしめ歯を強く食いしばって足元を見つめている。青年の中で何かが揺れているのは確かだ。男性の言葉は正しいと言えるだろう。青年も十分理解は出来ているがどうしても自分の中で責任というものが生まれてしまいそれをなくすことができないでいる。なんなら、なくすことに罪悪感さえ覚えている。そんな青年に男性はさっきとはうってかわって明るい声をなげかけた。
「ま、あくまで可能性の話だけど。それより名前教えてよ」
「…は?」
「だから、名前」
「…記憶力大丈夫ですか」
「もちろん」
「会うこともないのに教える必要ないって言いましたよね」
「また会おうって言ってるんだよ」
青年は目を見開いた。
「…海行くのやめたんですか」
「行くよ。ただ先延ばしにするだけ」
「なにそれ…」
「いいじゃん。ご飯食べに行こうよ」
「…」
「…君の意思は固いわけだ」
「寿司」
「うん?」
「寿司がいいです。もちろんそっち持ちで」
「…何となくわかってたけど可愛くないよね」
「人に名前を聞く時にまず自分の名前を名乗らない非常識人には言われたくないです」
「そんな非常識って程でもなくない?」
「俺の中では非常識です」
「どうせ自分も自分から名乗らないくせに」
「もう名前教えません」
「悪かったって。そらるだよ、俺の名前」
「…偽名だろ」
「名前であることには変わりないよ」
「なんだそれ」
「ほら名乗ったよ」
「…めいちゃんです」
「え、自分のことちゃん呼びなの?」
「ちゃんまでが名前なんですー」
「なんだ、そっちも本名じゃないじゃん」
「本名みたいなもんです」
「ほんと生意気」
「なんとでも」
そらると名乗った男性とめいちゃんと名乗った青年は顔を見合せ細く笑った。オレンジ色だった空と海の境界線は気づけば消えていて何も見えない。頼りになるのは月の明かりだけだった。
海のよく見えるその崖にあったふたつの影は静かに消えていた。
後日、寿司屋で2人の姿を見た人がいたとかいなかったとか。
現在の設定
文字サイズ
行間
背景色
×
12 / 12